ある休日、久しぶりに見事な快晴に恵まれた。青空が広がり、風も爽やかで、家にいるのがもったいなく感じた私は、家の近くの川岸まで散歩に出かけることにした。川沿いの道は、緑も豊かで自然の匂いがして、普段からお気に入りの場所だった。
「気持ちいいなぁ…」
川岸沿いを歩きながら、鳥のさえずりを聞き、澄んだ水面に映る景色を眺める。太陽の光がまぶしくて、まさに「散歩日和」という言葉がぴったりな日だ。
だが、しばらく歩いているうちに、突然視界がぼやけ始めた。濃い霧が川辺を覆い、まるで別の場所に迷い込んでしまったような感覚が襲ってきた。霧はどんどん濃くなり、ほんの数メートル先さえ見えないほどに広がる。
「なんだ、この霧…?」
あまりの濃さに少し戸惑いながらも、歩みを止めずに進むことにした。やがて霧が徐々に薄れ始め、視界が戻ってきたのを感じた。しかし――私はそこで思わず足を止めた。
空を見上げると、そこには夜の景色が広がっていたのだ。ついさっきまで太陽が輝いていた空は、いつの間にか漆黒の闇に包まれ、星と月が煌めいている。
「午前中だったのに…どうして…夜に…?」
混乱しながらも周囲を見渡すと、確かに自分がよく知る街並みが続いている。しかし、なぜかすべてが静まり返り、家々の窓も真っ暗だ。
私は恐る恐る歩き出した。夜になった街は、昼間とは全く異なる雰囲気を醸し出している。街灯がぼんやりと路面を照らしているが、その光さえもどこか冷たく、不気味に感じられた。
しばらく歩いていると、遠くに一人の人影が見えた。その人物はゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。見知らぬ人ではない。何度か近所で顔を合わせたことがある女性だ。
「すみません、今…何時ですか…?」
声をかけてみたが、返事はない。彼女は不自然に引きつった笑顔を浮かべたまま、無言で歩き続けている。何かがおかしい――そう感じた瞬間、彼女の目を見た。
その目は、まるでガラス玉のように焦点が合っておらず、生気が感じられない。無表情のまま、ぎこちない足取りで、通り過ぎていった。
「……」
私は唖然としながらその場に立ち尽くした。彼女が「偽りの人間」であることに気づき、急に恐怖がこみ上げてくる。
さらに進むと、他にも数人の人影が見えてきた。彼らも皆、同じように無機質な笑顔を浮かべ、焦点の合わない目で何も見ていないように歩いている。まるで街の空気そのものが冷たく張り詰めていて、どこにも人間らしさが感じられない。
「早く、この場所から出ないと…」
逃げ出したい気持ちで必死に歩き続けたが、町並みはいつもと同じに見えているのに、なぜかどこを歩いても出口が見当たらない。曲がっても、元の道に戻ってしまうような感覚が続く。
その時、遠くから警察官のような制服姿の男性がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
「助けてください! 私…ここから出たいんです!」
私の声に応え、彼は一度ため息をついた後、こちらを見て静かに言った。
「ここに紛れ込んでしまったのか…」
彼は私をじっと見つめ、優しい声で続けた。
「もう、ここには来ちゃダメだよ。」
その言葉を聞いた瞬間、目の前がふっと暗くなり、意識が遠のいていった。
次に目が覚めると、私は川辺の道に戻っていた。太陽がまぶしく照りつけ、見上げると雲一つない青空が広がっている。ついさっきまであの夜の街にいた感覚が、まるで悪夢のように蘇る。
「今のは…なん…だったんだ?」
震える手で顔を押さえ、深呼吸をした。だが、あの偽りの人間たちの無表情な笑顔が、いつまでも頭から離れなかった。
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