診察室には穏やかな空気が漂い、患者の女性は少し微笑んだ表情で座っていた。私が定期的な質問を終えると、彼女はふと思い出したかのように話し始めた。
「先生、最近、すごく不思議な夢を見たんです……ただの夢なんですけど、起きても心が温かいんです。」
私はその夢が彼女にとってどんな意味を持っているのか、興味を持ち、優しく促した。
「どんな夢だったんですか?よければ聞かせてください。」
彼女は少し遠くを見つめるようにしながら、夢の内容を話し始めた。
「夢の中で、どこか静かな場所にいるんです。辺りはうっすらと明るい光に包まれていて、風もなくてすごく静かで……ただ、そこにいるだけで心が落ち着くんです。」
彼女はその静寂の中に満ちていた安らぎを思い出しながら続けた。
「その時、どこからか『チリン』って、鈴の音が聞こえてきたんです。音自体は小さいんですけど、とても優しい音で、耳にふわっと心地よく響くんです。それを聞いていると、なんだかすごく癒されて、安心できるんです。」
彼女はその時の感覚を思い出し、顔をほころばせた。
「その鈴の音が響く中で、どんな気持ちが湧いてきましたか?」
「とにかく安心できました。普段は色々と考え事が多くて、頭が休まらないことも多いんですけど、その鈴の音を聞いている時は、すべてを忘れてただ心がスーッと軽くなるような気がしました。特に何かに包まれているわけでもないんですが、不思議と安心できて……」
彼女の表情は、夢の中の安らぎに満ちた様子が伝わってきた。私は、その鈴の音が彼女にとってどのような意味を持っているのか、さらに詳しく聞いてみたくなった。
「その音が聞こえる中で、何か特別な出来事や印象に残ったことはありましたか?」
「その鈴の音を聞いていると、自然と目を閉じたくなるんです。目を閉じると、音がもっと近く感じられて、まるで私のすぐそばで鳴っているみたいで……心の奥にまで音が沁みこんでくるような感じでした。何もないただの音なのに、まるで温かい光に包まれているようで……」
彼女はその鈴の音を思い出しながら、自分自身もその音に包まれているかのように、少し目を細めた。
「その夢から覚めた後、何か気持ちに変化はありましたか?」
「すごく気持ちが楽になっていました。目が覚めた時、あの鈴の音がまだ心に残っていて……一日中その余韻があって、何をしても穏やかな気持ちでいられました。不安とか、考えすぎてしまう気持ちが和らいだんです。本当に、ただの夢なのに不思議で……今もその音を思い出すと、なんだか心が落ち着きます。」
彼女の話を聞きながら、私はその夢の鈴の音が、彼女にとって癒しの象徴であると感じた。
「その鈴の音は、もしかするとあなたの心が求めている休息や、癒しを象徴しているのかもしれませんね。最近、何か気を張っていたり、不安を感じることは多くありませんでしたか?」
彼女は少し考え込み、静かに頷いた。
「確かに、最近は仕事のことで悩みが多くて……家に帰っても考え事が止まらなくて疲れていたかもしれません。でも、あの夢の鈴の音が、そんな私の心を癒してくれたんだと思います。もっと心を休ませてあげたいって気持ちが湧いてきました。」
診察室を後にする彼女を見送りながら、私はその夢が彼女にとってどれほどの癒しをもたらしたかを思い返していた。鈴の音――それは彼女の心の奥に響き、日々の疲れを解きほぐす音だったのかもしれない。彼女が現実でもその癒しを感じ、心の安らぎを見つけられる日が来ることを願っていた。
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