目次
初めての夜勤
大学の夏休みに、リゾートバイトで観光地のホテルにやってきたリョウ。山奥に建つそのホテルは、自然に囲まれており、日中は美しい景色が楽しめる場所だ。しかし、繁忙期には昼夜を問わず忙しくなるため、リョウは夜勤の仕事を任されることになった。
夜勤は深夜のフロントを見守り、廊下や施設内を巡回するだけの単純な仕事だと聞いていた。しかし、スタッフからは「夜中、山の方から物音が聞こえても気にしないように」と不気味なアドバイスを受け、少し不安がよぎった。
夜中の物音
初めての夜勤は午前1時からスタートした。静まり返ったロビーに一人でいると、薄暗いホテルの廊下がどこか不気味に感じられる。最初の数時間は何事もなく過ぎ、リョウは「思ったより簡単だな」と安心していた。
しかし、午前3時を回った頃、ホテルの奥からかすかな物音が聞こえた。最初は風のせいだと思い無視していたが、その音は徐々に大きく、そしてはっきりと響いてきた。
カタン……カタン……
「……誰かいるのか?」
リョウは怖さを感じながらも、懐中電灯を手にその音のする方へ向かう。音の方へ近づくと、物音は消え、静けさが戻った。
不気味な来客
フロントに戻り、少しホッとしたリョウがロビーのソファに腰掛けたその時、不意にフロントのベルがチリンと鳴った。深夜の時間に客が訪れることは滅多にないため、驚いてフロントに駆け寄ったが、カウンターの前には誰もいない。
ベルの音に続いて、かすかな囁き声が遠くから聞こえてくる。
「誰か……来ているのか?」
リョウはぞくりとしたが、意を決してフロントの奥の廊下へと足を進めた。薄暗い廊下の先には、微かに動く人影が見えた。リョウはその影に向かって声をかけようとしたが、なぜか声が出ない。恐怖が彼の喉を塞ぎ、体が動かなくなってしまったのだ。
部屋を覗く影
やがて、その影がゆっくりと扉を開けて、客室のひとつに入っていくのが見えた。リョウはその光景をじっと見つめることしかできなかった。影は一旦部屋に入った後、再び廊下に現れ、今度は別の客室の前に立ち、ドアの隙間から中をじっと覗き込んでいる。
そしてまた、次の部屋へと移動し、同じようにドアを覗き込んでいく。その動きは静かでゆっくりしており、何かを探し求めているかのようだった。リョウは鳥肌が立つのを感じながら、影が次第にこちらへと向かってくることに気づいた。
恐怖で足がすくんで動けないリョウの目の前で、影はついにフロントに戻り、すぐ隣のカウンターに立った。影がこちらを振り向いた瞬間、その顔は人間とは思えないほど無表情で、目の奥が暗闇に飲み込まれているかのように真っ黒だった。
終わらない夜勤
恐怖に耐えきれず、リョウは一目散にフロントから駆け出した。廊下を走り抜けて休憩室までたどり着き、そこでしばらく身を潜めたが、静まり返ったホテルの中に、自分の荒い呼吸音が響く。
「……さっきのは、何だったんだ?」
朝になり、リョウはその夜の出来事を同僚に話そうとしたが、結局何も話すことができなかった。夜勤の間だけ現れる、あの影のことを誰かに信じてもらえるはずがないと感じたからだ。
それからというもの、リョウは毎晩の夜勤が恐ろしくてたまらなくなった。
それ以来、ホテルの夜勤は、毎晩誰もいないはずの廊下から物音が聞こえるという噂が立ち続けている。
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