美沙は夏休みの間、山間にあるリゾートホテルでリゾートバイトをしていた。周囲を緑に囲まれたそのホテルは、鳥のさえずりや風に揺れる木々の音が心地よく、少し昔にタイムスリップしたような落ち着いた雰囲気が漂っていた。観光客も大勢来るが、夜は静かで、自然に囲まれてほっとする瞬間が美沙のお気に入りだった。
ある夜のことだった。仕事を終えて自室に戻り、窓を開けて外の空気を吸っていると、どこからか「チリン、チリン」と鈴の音が聞こえてきた。小さくて優しいその音は、遠くから聞こえてくるようで、なんとも言えない心地よい響きだった。
「なんだろう、この音……」
美沙は不思議に思いながらも、その音に誘われるように外へ出た。月明かりの差すホテルの庭には、柔らかな夜風が流れ、草木が静かに揺れている。その中に、再び「チリン、チリン」という鈴の音が響いた。
音のする方に歩いていくと、古い石造りの祠がひっそりと佇んでいるのが見えた。祠は庭の片隅にひっそりとあり、普段の忙しい業務の中では気づくことのないような場所だった。そこに、まるで待っていたかのように鈴が下げられており、風に揺れて静かに鳴っている。
「こんなところに祠があったなんて……」
祠の前で手を合わせようとした時、ふと誰かの視線を感じて顔を上げると、小さな影が見えた。小柄で、和服姿の年配の女性が静かに立っている。その姿はどこか昔話に出てくるような雰囲気をまとい、優しい微笑みを浮かべていた。
「遅くまでご苦労さま。この鈴の音は、あなたを呼ぶ音でしたね。」
女性の声は穏やかで、どこか懐かしさを感じさせるものだった。美沙は驚きながらも、その女性の優しい微笑みにはどこか安心感を覚えた。
「ありがとうございます。…でも、どうして私を呼んでくださったんですか?」
美沙が尋ねると、女性はにっこりと笑い、鈴を指さした。
「あなたは、毎日お仕事を頑張っていますね。この鈴の音はね、忙しくても自分を忘れないためにあるんですよ。この音が心地よく感じる時には、少し立ち止まって心を癒してあげるのが良いんです。」
美沙はその言葉を聞いて、日々の忙しさで自分のことを少しないがしろにしていたことに気づかされた。
その女性と話した後、心がふわりと温かくなり、ほっとするような感覚に包まれた。しかし次の瞬間、美沙が一瞬視線を外してから祠の方を見ると、そこにはもう女性の姿はなかった。まるで最初からいなかったかのように、ただ「チリン、チリン」と鈴の音だけが優しく響いていた。
それ以来、美沙は仕事に疲れると庭に出て、その祠の鈴の音を聞くようになった。その鈴の音は、今でも美沙の心にほっこりとした優しさをもたらし、彼女に寄り添い続けているのだという。
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