怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

湖に浮かぶ灯 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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大学時代からの友人、タカシと久しぶりに会うことになった。社会人になってからお互い忙しく、なかなか顔を合わせる機会がなかったけれど、今日はタカシが「気晴らしにドライブでも行こう」と誘ってくれた。

目的地も決めず、ただ山道を抜けて車を走らせていると、不意にタカシが「お前、湖とか好きだったよな」と言った。そういえば学生の頃、よく湖でぼんやりするのが好きだと話していたことを思い出す。彼はそれを覚えていて、わざわざ山の奥にある湖を目指してくれていたのだ。

湖畔での語らい

夕方、車を停めて湖に着くと、辺りは静かで涼やかな風が吹いていた。湖面は鏡のように空の赤みを映し出し、木々のざわめきだけが耳に心地よく響いている。僕たちは湖畔のベンチに腰掛け、昔話に花を咲かせた。

「お前さ、昔からちょっと不思議なやつだったよな。湖とか星空とか好きで、そういうのに何か感じるって言ってたじゃん」

タカシが笑いながらそう言うので、僕も苦笑した。「そういうお前だって、急にドライブ誘うなんて珍しいじゃん。どうしたんだ?」

「まぁ、たまにはな。でも、お前とこうやってしゃべってると、なんか落ち着くんだよな」

なんだか気恥ずかしくなりながらも、僕はその言葉が少し嬉しかった。

湖に浮かぶ灯

ふとタカシが湖面を指さした。「なあ、あれ、なんだ?」

見ると、湖の真ん中あたりに小さな灯がひとつ、ぽつんと浮かんでいる。最初はボートか何かのランプかと思ったが、近くにはそれらしいものは見当たらない。

「あんなの、あるもんか?」

僕が言うと、タカシも首をかしげた。「でも、ほら、ゆっくり動いてるみたいだぞ」

灯は静かに揺れながら、こちらに向かって近づいてくるように見えた。湖面の波紋を淡く照らしながら、その光はどこか暖かく、懐かしいような感覚を伴っていた。

小舟と灯

しばらく見ていると、灯が近づいてきて、小さな舟に乗った人影が浮かび上がった。それは驚くほど古びた木製の舟で、中にはひとりの老人が乗っていた。老人は穏やかな笑みを浮かべながら、静かに湖面を漕いでいる。

「こんな時間に舟なんて……危なくないのかな?」

僕がつぶやくと、タカシが冗談めかして言った。「まあ、俺たちみたいな変わり者もいるってことだろ」

しかし、次の瞬間、老人がふいにこちらを見て微笑みながら手を振った。その仕草があまりにも自然で、僕たちも反射的に手を振り返していた。

奇妙な帰り道

その後、老人と灯はゆっくりと湖の奥へ消えていった。なんとも言えない静けさが辺りを包み、僕たちは不思議な気分を抱えたまま車に戻った。

帰り道、タカシがふとつぶやいた。

「なあ、あの老人さ……なんかどこかで見たことある気がするんだよな」

「俺もだよ。でも、そんなはずないよな。どっかのおじいさんが気まぐれで舟を漕いでただけじゃないの?」

タカシはそれ以上何も言わなかったが、どこか気になる表情だった。

湖の灯の記憶

それから数日後、タカシから連絡が来た。「この前の湖のこと、親に話したら、昔、うちの祖父も湖の近くで舟を漕いで遊んでたらしい。写真を見せてもらったんだけど、あの老人にそっくりだった」

驚きと共に、あの灯が持っていた不思議な温かさを思い出した。もしかしたらあの湖には、時間や人の記憶を繋げるような、不思議な力があるのかもしれない。僕たちはいつかまた、あの湖に行こうと約束した。



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