目次
新しい生活
小学3年生のアキは、この春から新しい学校に転校してきたばかりだった。性格が内向的で、クラスでまだ友達ができず、休み時間もひとりで絵を描いたり、本を読んだりして過ごしていた。
家では共働きの両親が忙しく、夕方までひとりで遊ぶことが多かった。近くの大きな公園にだけは行っていいと許されていたため、アキはときどき公園で時間を過ごしていた。
草むらのお地蔵さん
ある日、アキが公園をぷらぷら歩いていると、草むらの奥にぽつんと置かれた小さなお地蔵さんのような石の人形を見つけた。
「なんで、こんなところにあるんだろう?」
近づいてみると、そのお地蔵さんは背丈30センチほどの小さな石の像だった。丸い頭に穏やかな表情。誰も手入れをしていないらしく、苔がうっすら生えている。
アキには、そのお地蔵さんがどこか寂しそうに見えた。
「……こんにちは。私、アキだよ。」
何の気なしに話しかけると、不思議と気持ちが落ち着いた。アキは近くの葉っぱを拾い、石ころをご飯に見立てて、お地蔵さんとおままごとを始めた。
その時間は、あっという間に過ぎてしまった。
お地蔵さんとの日々
それからというもの、アキは放課後になると公園の草むらに行き、お地蔵さんとおままごとをするのが日課になった。
ある日は学校であった出来事を話し、ある日はただ黙々と「ご飯」を作る。お地蔵さんは当然何も言わないが、アキはそれが不思議と楽しかった。
ある日、アキはぽつりとお地蔵さんに悩みを打ち明けた。
「本当はね、お友達が欲しいんだけど、はじめての人とお話するのが苦手で……。」
アキはお地蔵さんを見つめて続けた。
「だから、私と遊んでくれてありがとう。お地蔵さんがいてくれて、嬉しいよ。」
その瞬間、ふと男の子の声が聞こえた気がした。
「大丈夫。もうすぐお友達ができるよ。」
驚いてお地蔵さんを見返したが、そこにはいつも通り無表情のお地蔵さんがあるだけだった。
友達との出会い
数日後、アキがいつものようにお地蔵さんと遊んでいると、草むらの奥からクラスメイトのリサが現れた。
「アキちゃん?こんなところで何してるの?」
アキは驚きながらも、恥ずかしそうに答えた。
「お地蔵さんと、おままごとしてるの……。」
リサは少し驚いた顔をした後、あたりを見渡して言った。
「男の子いなかった?なんか声が聞こえた気がしたんだけど。」
アキは一瞬、あの時のお地蔵さんの声かと思ったが、そんなことはないと思い直し、「いないよ。私とお地蔵さんだけ」と答えた。
するとリサはニコッと笑って言った。
「そっか。おままごと楽しそうだね!私も入れてくれる?」
アキは驚きつつも嬉しくなり、小さな声で「いいよ。一緒に遊ぼう」と答えた。その日から、アキとリサは放課後を一緒に過ごすようになった。
少しずつ広がる世界
リサと一緒に遊ぶことが増えたアキは、学校でも少しずつクラスメイトと話せるようになった。お地蔵さんと遊ぶ時間は減ったが、アキはときどき草むらを訪れ、近況を報告するようになった。
「リサちゃんとね、昨日は鬼ごっこしたんだよ。」
「他の子とも少しずつ話せるようになったよ。」
お地蔵さんはいつもと変わらずそこにいるだけだったが、不思議とアキの心は温かくなった。
ありがとう、お地蔵さん
新しい生活にも慣れたある日、アキは草むらのお地蔵さんの前でそっと手を合わせた。
「お地蔵さん、ありがとう。お友達ができたのはきっと、お地蔵さんのおかげだよ。」
風がそよそよと吹き、お地蔵さんの穏やかな表情が、どこか嬉しそうに見えた。
それ以来、アキはお地蔵さんのことを心の中で「特別なお友達」と呼ぶようにした。
お地蔵さんはいつまでも草むらの中で、アキをそっと見守り続けているようだった。
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