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不思議なぬいぐるみ 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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疲れ果てた日常

主人公のタカシは、毎日会社と家を往復する生活を送っていた。朝早く出勤し、仕事をこなして帰宅する頃には体力も気力も尽き果てている。

家に帰れば少しは休めるが、腹が減るのが悩みだった。料理をする気力もなく、駅前で弁当を買うのが習慣になっていた。

どんな弁当を選んでも味気なく、ただ空腹を満たすだけ。最近ではどの弁当も同じ味に感じられるようになっていた。

不思議な出会い

ある日、いつも通り駅前の弁当屋に寄ると、弁当屋の脇に小さな露店が出ていた。手作りの雑貨やぬいぐるみが並んでいる露店で、一人の年配の女性が売り子をしていた。

何気なく足を止めたタカシは、棚の片隅に置かれた一つのぬいぐるみに目が留まった。くたびれた小さなクマのぬいぐるみだが、どこか愛嬌のある顔をしている。

「気になりますか?」

売り子の女性が微笑みながら声をかけてきた。

「いや、なんとなく……」

タカシは答えたが、気づけばそのぬいぐるみを手に取っていた。

「これはね、少し疲れている人にぴったりなんですよ。そばに置いておくだけで心が和むかもしれませんね」

そう言われ、タカシはなぜか購入を決めた。値段は500円と安かった。

ぬいぐるみとの生活

家に帰ったタカシは、特に意味もなくそのぬいぐるみをソファの上に置いた。疲れ果てた体でいつものように弁当を広げ、食事を始めると、ふとぬいぐるみが視界に入った。

その瞬間、弁当の味がいつもより美味しく感じられた。少なくとも「いつもと同じ味」ではなかった。

「気のせいか……?」

そう思いながらも、不思議と心が軽くなる感覚がした。

変化する日常

それからというもの、タカシはそのぬいぐるみを家の中で常にそばに置くようになった。食事をする時、ソファで休む時、寝室に行く時――ぬいぐるみは静かにそこにいるだけだったが、なぜか生活に少しずつ変化が訪れた。

弁当の味が少しずつ違って感じられるようになり、以前より美味しく食べられるようになった。それだけではない。いつもは重く感じられた朝の目覚めも、少し軽やかになった気がする。

疲れ切っていた日常に、微かな楽しみが増え始めていた。

ぬいぐるみの秘密

ある晩、タカシは不思議な夢を見た。夢の中で、例のクマのぬいぐるみが小さな声で語りかけてきた。

「あなたの疲れ、少しでも取れているならよかった。でも、僕の役目はもう少しだけ。もうすぐ君は、自分で元気を見つけられるようになるから」

目を覚ましたタカシは、その夢が妙に現実味を帯びているように感じた。しかし、クマのぬいぐるみは何事もなかったかのように、ソファの上で静かに座っていた。

新たな一歩

ぬいぐるみと過ごすようになってから数週間後、タカシはふと駅前の弁当屋に寄るのをやめ、自分で簡単な料理を作ってみる気になった。久しぶりにキッチンに立つと、何か新しいことを始めたような小さな達成感が湧いた。

ぬいぐるみは今もそばにある。クマの静かな表情を見ていると、不思議とやる気が湧いてくるのだ。

「ありがとうな」

思わず呟くと、クマが少し微笑んだように見えた――気のせいだろうか。

それ以来、タカシは以前より少しだけ充実した日々を送れるようになった。ぬいぐるみは静かにそばにいるだけだが、その存在は確かに彼の心を支えていた。奇妙だけれど心温まるその体験を、タカシはずっと大切にしている。



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