僕が勤める会社のオフィスには、一角にアンティークな飾り棚がある。来客の目を楽しませるために置かれた装飾品らしいが、そこに飾られているのは、なぜか古びたアンティーク人形や日本人形ばかりだった。
金髪で西洋風のドレスを着たドールや、黒髪を結い上げた日本人形が、棚の中からこちらを見つめている。昼間は気にも留めなかったが、よく見ると、その瞳がどれも妙にリアルで、不気味だと思わざるを得ない。
「なんでこんなの飾るんだよ……」
一度同僚にそう愚痴をこぼしたことがあるが、「上司の趣味だってさ」と言われたきり、話は終わった。
目次
深夜残業と人形の影
その日も僕は、残業で終電を逃しそうな時間までオフィスに残っていた。パソコンの画面を見つめ、黙々と資料作りに追われる中、オフィスの静けさがだんだんと重くのしかかってくる。
ふと気が散り、視線を飾り棚に向けると、昼間には気にならなかった人形たちが妙に不気味に見えた。西洋のドールはそのガラス越しに微笑みかけるようで、日本人形の瞳はまるで何かを訴えるようにじっとこちらを見つめている。
「……気のせいだ」
自分に言い聞かせて仕事に戻るが、ふとした瞬間に人形たちの存在が気になり、何度も棚を見てしまう。
足音と視線
時計は深夜1時を回っていた。誰もいないはずのオフィスで、ふいに足音が聞こえた気がして顔を上げる。しかし、見回しても誰もいない。
気のせいかと思いながら、再びパソコンに向かうが、背後にある人形たちの棚がどうしても気になる。足音がしたのは気のせいではないのではないか――そんな疑念が頭をよぎる。
「もう少しで終わる……集中しろ」
資料を仕上げ、やっとのことで仕事が終わった。パソコンをシャットダウンし、席を立とうとしたその時、再び足音が聞こえた。今度は確かに近い。
そして、背後の棚から――カタッと音がした。
人形たちの異変
思わず振り返ると、飾り棚の中にあるドールが、いつもと違う場所に動いているように見えた。さっきまで中央にあったはずのドレス姿のアンティークドールが、棚の端の方に寄っている。
「……気のせいだ。絶対気のせいだ」
そう思おうとしたが、どうしても視線がそのドールに吸い寄せられる。じっと見つめていると、今度は日本人形が妙に違和感を放っていることに気づいた。
首が、ほんの少しだけ傾いている――。
息苦しい静けさ
背筋に冷たいものが走り、足早に帰ろうとした時、再び足音が聞こえた。そして今度は確かに、背後から微かな気配を感じた。
振り返りたくない――そう思いながらも、意を決して後ろを向く。飾り棚の中の人形たちは何事もなかったかのように静かに座っている。だが、その瞳がどこか生き生きとしているように感じられ、心臓が跳ね上がった。
「……もう、帰ろう」
コートを掴み、急いでオフィスを後にした。背後の棚が、何かを見送るように感じたのは、ただの気のせいであってほしい。
翌日の出来事
翌日、会社に出勤すると、飾り棚の周りに同僚たちが集まっていた。
「どうしたんですか?」
話を聞くと、飾り棚の中にあったアンティークドールが一体、割れたガラスケースの外に転がっていたらしい。
「え、誰か触ったの?」
「いや、そんなわけないだろ。昨日、誰も触ってないってさ」
僕は言葉を失った。あの足音やカタッという音、そしてあの視線――思い返せば全てが繋がっている気がする。あれは本当に気のせいだったのだろうか。
飾り棚を見ると、割れたケースの中で日本人形がいつも通り座っている。しかし、その瞳だけが、どこか微笑んでいるように見えた。
その日以来、僕は二度と深夜残業をしなくなった。
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