大学の長期休暇が来るたび、僕は田舎の祖母の家を訪れていた。祖母はいつも優しく迎えてくれ、何気ない話や、庭いじりをしながら過ごす時間は、都会の喧騒とは無縁の特別なひとときだった。
しかし、数か月前に祖母が亡くなり、その家は空き家となった。葬式に出たものの、祖母がもういないという事実はどこか現実味がなく、心の片隅ではまだ信じられないままでいた。
目次
初めての再訪
長期休暇を迎えたある日、父と母に頼まれて、祖母の家の換気と掃除をしに行くことになった。数か月間、人が住んでいない家だ。埃が積もり、湿気で空気が重くなっているだろうと予想していた。
ところが、祖母の家に着いて玄関を開けた瞬間、驚いた。家の中は綺麗で、閉め切っていたはずの空気も澄んでいる。
「人がいないともっと荒れるもんだよな……」
首をかしげつつ、思わず口をついて出たのは、いつもの挨拶だった。
「おばあちゃーん、こんにちは!」
その瞬間、家の奥から懐かしい声が響いた。
「はーい、いらっしゃーい!」
息を呑んだ。祖母の声だった。思わず目を丸くしていると、トコトコと奥から祖母が現れた。やさしい笑顔、いつものエプロン姿。まさに、生前の祖母そのものだった。
祖母との時間
驚きと困惑でしどろもどろになりながらも、「……泊まりに来たよ」と伝えると、祖母はにっこりと笑って、「そうかい、ゆっくりしていきなさい」と答えた。その言葉に妙に安心し、自然と祖母とのいつもの時間が始まった。
ご飯を一緒に食べ、縁側で話をし、庭を眺めて過ごす――いつもの田舎の時間がそこにあった。祖母と過ごす数日間は温かく、心が満たされるようだった。
帰り際、祖母に「また来るね」と言うと、祖母は優しく手を振った。家を出た時、思わず涙がこぼれた。
母と一緒の訪問
後日、母と一緒に祖母の家に行くことになった。空き家の状態を確認し、草刈りをするためだ。
僕は母がいる時に祖母が現れるのかドキドキしていたが、その日は何も起こらなかった。家の中はただの空き家で、祖母の気配も声もない。草刈りを終え、家を後にする時、あの日の出来事は幻だったのかもしれないと思い始めていた。
再びの声
次の長期休暇、再び一人で祖母の家を訪れた。玄関を開け、半信半疑で言葉をかけた。
「おばあちゃーん、来たよー!」
するとまた、奥から声が返ってきた。
「はーい、いらっしゃーい!」
あの時と同じだった。祖母がトコトコと現れ、僕を温かく迎え入れてくれる。再び祖母と過ごす時間が始まり、心の中の疑問や不安はすっと消えていった。
その瞬間、僕は確信した。祖母はこの家にまだいる。そして、なぜか僕一人の時だけ姿を現すのだと。
二人だけの秘密
それから数年が経った。長期休暇のたびに祖母の家を訪れるのが、僕の恒例行事となった。玄関を開け、「おばあちゃーん」と声をかけると、必ず返事が返ってくる。そして、祖母と数日間の穏やかな時間を過ごすのだ。
父と母には「祖母の家はどうだった?」と聞かれるたび、「きれいだったよ」と答えるだけで、それ以上は何も言わない。この秘密は僕と祖母だけのものだ。
祖母がいつまでこの家で待っていてくれるのかはわからない。それでも、次の長期休暇にはまた玄関を開けて、祖母に声をかけるだろう。そして、きっと彼女の声が返ってくる。
この静かで温かい秘密が、僕の心をずっと支え続けてくれる気がしている。
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