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お地蔵様と猫の鳴き声 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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深夜のオフィス

タカシは、締め切りに追われ、今日も深夜残業をしていた。オフィスは高層ビルの30階にあり、静まり返った空間でひとり仕事を続けていた。時計は午前1時を過ぎており、街の喧騒は遠くにかすかに聞こえる程度だった。

窓際に座っているタカシのデスクからは、遠くのビルの明かりや街の夜景が見える。そんな中、ふと奇妙な音が聞こえた。

「ニャー……」

猫の鳴き声だった。

猫の声の不自然さ

「こんな高層階に猫なんているわけないよな……」

最初は気のせいかと思ったが、間隔を置いてまた鳴き声が聞こえる。

「ニャー……」

タカシは窓の外を見たが、猫の姿はどこにもない。オフィス内を見回しても当然猫などいるはずがない。

「疲れてるのかな……」

そう自分に言い聞かせ、再び仕事に集中しようとした。しかし、鳴き声は次第に増え始めた。

「ニャー……ニャー……ニャー……」

まるで複数の猫が部屋中にいるかのようだ。

不気味な足音

鳴き声とともに、タカシは小さな足音も聞こえ始めた。

「カタッ、カタッ……」

その音は、猫が歩くような軽い足音に思えた。しかし、辺りをいくら見回しても、何もいない。タカシの背中にはじっとりと汗が滲み始めた。

「おかしい……何かいるのか?」

反対の窓際の方から気配を感じ、タカシは恐る恐る近づいた。

お地蔵様の姿

窓際には、普段はないはずのものが置かれていた。

それは、小さな石のお地蔵様だった。

高さ30センチほどの石像で、穏やかな顔をしている。どこか汚れていて古びた感じだが、こんなものがオフィスにあった記憶はない。

「なんでこんなところに……?」

タカシが石像に手を伸ばそうとした瞬間――

「ニャー……!」

鳴き声が一斉に響いた。それは一匹や二匹どころではない、大勢の猫が一斉に鳴いているようだった。

迫り来る気配

鳴き声はますます大きくなり、足音も四方八方から聞こえてくる。タカシは恐怖に駆られ、机の上のメモ帳に思わず「猫の数」を書き出し始めた。

「1匹、2匹、3匹……10匹……20匹……」

声と足音は止まらず、部屋中を埋め尽くしていくかのようだった。気配はますます強まり、タカシはその場にへたり込んでしまった。

ふと視線を上げると、お地蔵様がじっとこちらを見ているように感じた。

気を失った後

気づけば、タカシはデスクに突っ伏していた。

「……夢か……?」

震える手でメモ帳を開くと、そこには確かに「猫の数」を記した跡があった。

「1匹、2匹、3匹……50匹……」

最後に書かれた数字を見て、タカシは背筋が凍りついた。

その時、窓際を見ると、お地蔵様の姿は消えていた。

後日談

翌日、タカシは同僚に昨夜のことを話そうとしたが、言葉を飲み込んだ。誰も信じてくれないだろうし、自分でも現実だったのか幻だったのか分からなかったからだ。

しかし、それ以来、タカシは夜遅くまでオフィスに残ることはしなくなった。

あの鳴き声が再び聞こえるのではないかと思うと、どうしても夜のオフィスにはいられなかったからだ。

お地蔵様が何を意味していたのか、猫の声が何だったのか――その答えをタカシが知ることは、もうなかった。



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