その日、僕は深夜まで仕事をしてようやく帰宅した。気持ちを切り替えるため、家に着いてから少し散歩をすることにした。近くの公園は昼間は子どもたちで賑やかだが、深夜はひっそりとしていて静かだ。
疲れた体を引きずりながら公園の入り口を通り抜け、いつものベンチに向かった。空にはぼんやりとした月明かりが浮かび、風の音だけが耳をくすぐる。
ふと、その静寂を破るように猫の鳴き声が聞こえた。
「ニャー……」
目次
公園のお地蔵様
鳴き声は公園の奥から聞こえるようだった。気になって音のする方へ歩いていくと、小さな石のお地蔵様が目に入った。
そのお地蔵様は、砂場の脇にぽつんと立っていた。赤い前掛けが夜風に揺れているが、どこか古びていて、長い間誰にも手入れされていないように見えた。
「こんなところにお地蔵様なんてあったっけ……?」
公園には何度も来たことがあるが、そのお地蔵様を見た記憶は一度もなかった。
猫の鳴き声が増える
お地蔵様をぼんやり眺めていると、また「ニャー……」という声が聞こえた。今度はそれだけではなく、複数の猫の声が重なるように響いてくる。
「ニャー……ニャー……ニャオオ……」
暗闇の中で鳴き声が反響し、まるで周囲を取り囲むように聞こえた。
辺りを見回しても猫の姿はどこにも見えない。それなのに、鳴き声はどんどん近づいてくる。
お地蔵様の異変
鳴き声が近づくにつれ、お地蔵様の姿がどこか異様に見えてきた。目を凝らしてみると、石像の顔が微かに変化している気がする。
「……笑ってる?」
いつの間にかお地蔵様の表情が笑みを浮かべているように見えた。背筋が寒くなり、足がすくむ。
その時、鳴き声がぴたりと止んだ。静寂が戻り、僕は凍りついたようにお地蔵様を見つめていた。
猫たちの影
一歩後ずさりしようとした瞬間、目の端に何かが動いた。振り返ると、木々の間に無数の猫の目が光っているのが見えた。
金色の瞳がいくつも闇の中に浮かび上がり、次第にこちらに向かって歩み寄ってくる。
「何なんだ……これ……」
猫たちの足音が砂を擦る音と共に近づき、僕の心臓はバクバクと鳴った。逃げるべきだと頭では分かっているのに、足が動かない。
鳴り響く鈴の音
その時だった。お地蔵様の首元についていた鈴が風に揺れたように「チリン……」と音を立てた。
その音を聞いた瞬間、猫たちの目が一斉に消え、辺りの空気が急に軽くなった。
「……助けられた?」
震える足でその場を離れ、家に帰る途中、背後から鈴の音が微かに聞こえた気がした。
後日談
翌日、あの公園に行ってみたが、お地蔵様はどこにもなかった。あれは一体何だったのか――夜になると猫の鳴き声が蘇りそうで、思い出すたびに身震いがする。
ただ、あの時お地蔵様が守ってくれたのだと信じたい。再びあの鈴の音を耳にすることがないようにと、深夜の散歩はもうやめることにした。
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