目次
静まり返ったオフィス
主人公のタカシは、広告代理店で働くデザイナーだ。年末の忙しい時期、納期が迫った仕事を片付けるため、連日深夜残業が続いていた。
その日も、時計はすでに午前2時を回っていた。オフィスは完全に無人で、静まり返っている。タカシはキーボードを叩く音と、自分の浅い呼吸だけが響く空間に微かな不安を感じながらも、目の前の仕事に集中していた。
聞こえてくる猫の鳴き声
しばらくすると、どこからか猫の鳴き声が聞こえてきた。
「ニャー……」
静かなオフィスに響くその声に、タカシは一瞬手を止めた。ビルの周辺には野良猫がいるのを見かけたことがある。窓の外から聞こえてきたのだろうと、自分に言い聞かせて再び作業に戻る。
しかし、数分後――
「ニャー……」
再び猫の鳴き声が聞こえた。今度はさっきより近い。
「おかしいな……窓は閉まってるし、外からじゃないのか?」
タカシは不安になり、椅子から立ち上がってオフィス内を見渡したが、猫どころか動くものは何もない。ただ暗がりに静けさが漂うだけだった。
近づく声
席に戻り、再び作業を始めるが、今度は鳴き声が頻繁に聞こえるようになった。
「ニャー……ニャー……」
その声は徐々に近づいてくるような気がする。まるで、猫が自分の机の周りをうろついているような――
「気のせいだ……疲れてるだけだ……」
そう呟きながらタカシは作業を続けたが、ついに耳元で鳴き声が響いた。
「ニャー……」
タカシは反射的に振り返ったが、そこには誰もいない。震える手で近くのライトをつけ、辺りを確認するが、やはり何も見つからなかった。
不可解な足跡
鳴き声が止んだかと思うと、今度はどこからか小さな足音が聞こえてきた。
「カタ……カタ……」
まるで猫の足音のようだ。オフィスの床を歩くような音が聞こえ、タカシは恐る恐る机の下を覗き込んだ。しかしそこにも何もいない。
「……何なんだよ、これ……」
その時、タカシの机の隅に置かれた書類に、小さな泥の足跡がついているのに気づいた。
「猫が入ってきた……? でもどうやって……」
不安に駆られ、タカシはその場を離れたくなった。しかし仕事を終えなければ帰れない。
声が誘う場所
もう一度席に戻ろうとした瞬間、今度ははっきりとした鳴き声が聞こえた。
「ニャー……」
それは、オフィスの奥にある倉庫の方からだった。鳴き声に誘われるように、タカシは足を引きずるようにして倉庫へ向かった。
倉庫の扉を開けると、中は薄暗く、ほこり臭い空気が漂っていた。鳴き声はさらに奥から聞こえてくる。タカシは携帯のライトを頼りに進んだ。
「ニャー……」
声のする場所にたどり着いた時、タカシは目を疑った。そこには、一匹の猫がポツンと座っていた。しかし、その猫の姿はどこか異様だった。
猫の目はまるで人間のように光を反射し、じっとタカシを見つめていた。
逃れられない影
猫を見た瞬間、背後から誰かがじっと見つめる気配を感じた。振り返ろうとしたが体が動かない。
猫が一歩、また一歩と近づいてくる。
「……誰か……いるのか?」
タカシが声を絞り出した瞬間、背後の気配が急に消えた。部屋には再び静寂が戻り、猫の姿も消えていた。
朝を迎えて
気づけばタカシは、自分の席で突っ伏して眠っていた。夢だったのだろうか。時計を見ると、朝の6時を過ぎていた。
「疲れすぎて幻覚を見たんだな……」
そう思いつつも、タカシは倉庫に足を向ける気にはなれなかった。そして、机の上の書類にはまだ泥の足跡が残っていた。
それ以来、タカシは深夜の残業を極力避けるようになった。あの猫が一体何だったのか――その答えを知るのが怖かったからだ。
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