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深夜残業と猫の鳴き声 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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その日、僕はいつも以上に遅くまでオフィスに残っていた。締切に追われ、終わりの見えない作業にため息をつく。時計を見ると、もう夜中の1時を過ぎていた。

同僚たちはとっくに帰り、オフィスのフロアには僕一人。パソコンのキーボードを打つ音だけが静まり返った空間に響いていた。

「早く終わらせて帰ろう……」

疲れた目をこすりながらそう呟いた時、不意にどこからか猫の鳴き声が聞こえてきた。

「……ニャー……ニャー……」

謎の鳴き声

耳を澄ませると、鳴き声は外から聞こえてくるようだった。窓を開けてみたが、ビル街の暗い路地には猫の姿など見えない。ただ、確かに聞こえる――不気味なくらい静かな夜に溶け込むような、か細い鳴き声だ。

「こんな時間に猫なんて……」

気にしないようにして作業を続けるが、鳴き声は途切れることなく、一定の間隔で繰り返される。その声にはどこか異様な響きがあった。普通の猫の鳴き声とは違い、何かを訴えているような、いや、人の声のように聞こえる気さえする。

鳴き声の出どころ

耐えられなくなり、僕はついに鳴き声の出どころを確かめようとオフィスを出た。フロアを歩き回ると、鳴き声はエレベーターの方から聞こえてくるようだった。

「……ニャー……ニャー……」

近づくほどにその声が耳に刺さるように響き、心臓が不規則に高鳴る。やがて、エレベーターホールに到着すると、鳴き声はすぐそばから聞こえていた。

「ここから……?」

目を凝らして周囲を見回すが、猫の姿はどこにもない。代わりに、エレベーターのドアが少しだけ開いていることに気づいた。

開いたエレベーター

エレベーターのドアに近づき、そっと覗き込むと、中は真っ暗だった。照明が切れているのか、いつもなら明るいはずの箱の中がまるで深淵のように漆黒に沈んでいる。

「……ニャー……」

鳴き声は、間違いなくその中から聞こえてくる。

「何かいるのか……?」

僕は思わず携帯のライトを点け、エレベーター内を照らした。すると――。

ライトの先には、小さな影が見えた。確かに猫だった。

黒い毛並みを持つその猫は、こちらをじっと見つめている。ただ、その目がどこかおかしい。輝くはずの瞳が、まるで深い穴のように真っ黒だったのだ。

不気味な猫

「……なんだ、これ……」

後ずさりしようとした瞬間、エレベーターのドアが突然閉まり始めた。慌ててその場を離れようとしたが、ドアが完全に閉まる直前、猫の姿がスッと消えたのが見えた。

そして次の瞬間――。

「ニャー……」

鳴き声が、今度は背後から聞こえた。

見えない気配

恐る恐る振り返ると、そこには誰もいない。けれど、空気が変わっているのを感じた。何かが背後から僕を見ている――そんな得体の知れない視線の感覚が全身を覆う。

冷や汗が滲み、呼吸が浅くなる中、耳元でかすかに声が聞こえた。

「……逃げられない……」

もう限界だった。僕はオフィスへ駆け戻り、デスクにあった荷物を掴むと、そのまま会社を飛び出した。

帰宅後の異変

家に帰り、荒い息を整えながら振り返ると、何も追ってきていないことに安心した。けれど、その夜は眠れなかった。

翌日、オフィスに出勤すると、エレベーターは普通に動いており、あの黒い猫の姿もなかった。同僚に「昨日、深夜に猫の鳴き声が聞こえなかったか」と聞いてみたが、誰もそんなものは知らないと言う。

まるで全てが夢だったかのようだ。だが、ふとデスクに座ると、そこには見覚えのない黒い毛が一筋落ちていた。

そしてその瞬間、遠くからまたあの声が聞こえた気がした――。

「……ニャー……」



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