怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

「見えない住人」 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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【プロローグ】

都内で一人暮らしを始めた大学生の直人。家賃が相場よりも安い理由は、部屋に古い家具が置かれていることだった。取り壊し予定のマンションのため、内装の管理が甘いのだと不動産屋は説明した。直人は特に気にすることもなく、その部屋に住むことを決めた。だが、それが彼の悪夢の始まりだった。

【最初の異変】

引っ越し初日、荷物を整理していると、部屋の隅に置かれた古びた鏡に気づいた。丸い木製の枠に囲まれたその鏡は、どこか不気味だったが、捨てるのも面倒だと思い、そのまま放置した。

その夜、寝ていると耳元で何かを囁く声が聞こえた。

「ここは…僕の家…」

飛び起きた直人が部屋を見回すと、誰もいない。しかし、鏡の中に何かが動いた気がした。

【増える「住人」】

数日後、異変はエスカレートした。電気を消した後も部屋の中で気配を感じる。物音がする方向を確認しても、そこには鏡があるだけ。

ある日、直人はふと鏡を覗き込んだ。背後には自分以外の影が映っていた。振り返るが誰もいない。しかし、鏡を見るたびにその影の輪郭が徐々に鮮明になり、最終的にははっきりとした人の姿になった。それは、無表情の男性だった。

【鏡の中の現実】

怖くなった直人は鏡を布で覆うことにした。しかし、それでも事態は収まらない。夜中に目を覚ますと、覆ったはずの布が床に落ちており、鏡には複数の顔が映っていた。

「僕たちはここにいる…」

声が耳元で囁くたび、鏡の中の「住人」が増えていく。直人は恐怖のあまり、不動産屋に連絡して部屋を出たいと訴えた。

不動産屋は困った様子でこう答えた。
「その部屋、前の住人も似たようなことを言って急に引っ越したんです。でも…誰かが住んでいるわけじゃないんですよ。」

【真実】

引っ越しを決意した直人は、最後に部屋を掃除していた。その時、鏡の裏に何か紙が挟まっているのを見つけた。古びた紙にはこう書かれていた。

「この鏡に映る者は、ここに囚われる。」

直人はすぐに鏡を捨てようとしたが、どこかに処分する勇気が出ず、近くの廃棄場に置いてきた。その夜、スマホの画面を何気なく見ると、鏡を捨てた場所がぼんやりと映し出されていた。そして画面の奥から声が聞こえた。

「逃げられると思った?」

【結末】

それから直人はどこにいても、鏡やガラスに自分以外の影を見るようになった。引っ越しても、その「住人」たちは彼を追い続けた。

あなたの部屋にも、見えない住人がいるかもしれない。そしてその姿は、きっとどこかの鏡に映っている。



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