怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

不思議な空 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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私にも一度だけ、奇妙な体験をしたことがあります。他の方の話ほど怖いわけでも、不思議さに満ちているわけでもないんですが、せっかくなのでお話しさせてください。

新人社員の頃

あれは、私が社会人になりたての頃の話です。仕事にも少しずつ慣れてきた頃で、だんだん社会人のつらさが分かってきた時期でした。新しい環境でのプレッシャーや、慣れない日々の繰り返しに、正直気持ちは沈みがちでした。

その日も、会社を定時に退社し、最寄り駅までの電車を降りた時、ふと気分転換がしたくなったんです。そのまま家に帰るのが嫌で、近所の公園へ向かうことにしました。

高台の公園

その公園は、家から歩いて15分ほどの場所にあります。小さな公園ですが、少し高台になっていて、そこから見える景色がとても綺麗なんです。

夕暮れ時には、遠くの街の明かりや、山の稜線が薄紅色に染まって、それを見るといつも気持ちが少し軽くなっていました。

その日も、そんな景色を見たくて高台まで足を運びました。

奇妙な空

高台に着き、いつものように景色を眺めた時です。ふと遠くの空が妙な色をしていることに気がつきました。

虹色に似ているのですが、どこか違う。絵の具の色が何色も混ざり合い、不規則に溶け込んだような――まるで異世界の空を見ているような、不思議な光景でした。

「……なんだこれ?」

思わず立ち尽くして、その空を見つめました。息をするのも忘れるくらい、見たことのない空に圧倒されていたんです。

写真を撮る

しばらくして、我に返りました。「これを撮らなきゃ」と思い、慌ててポケットから携帯電話を取り出しました。

当時は、まだ折りたたみ式の携帯電話が主流で、画質も今ほど良いものではありません。それでも何枚か撮影しました。

その間も、空の奇妙な模様はじっとそこに留まっていました。しかし、5分ほど経った頃、突然その色はスッと消え、いつもの夕暮れの空に戻ったんです。

誰にも伝わらない

家に帰り、その写真を家族や友人に見せました。

「これ、不思議な空じゃない?」

写真を見た人たちは、口々に「確かにちょっと変わってるね」と言うものの、それ以上の関心を示してくれませんでした。画質の悪い携帯電話の写真では、あの異世界のような空の鮮やかさや不思議さは、ほとんど伝わらなかったのです。

今でも残る写真

その後、あの空を見ることは一度もありません。撮った写真は、今でもデジタルアルバムの中に残っています。

時々、その写真を見返すことがあります。ぼやけた画質の中に映る奇妙な空を見ていると、「あの空はいったい何だったんだろう?」と考えずにはいられません。

科学的に説明がつく現象だったのか、それともあの日の私だけが見た特別な光景だったのか。

それでも思うこと

結局、本当のところは分からないんです。私自身も「あの空が本当に存在していたのか」と疑問に思うことがあります。

でも、こうも思うんです。あの空は、社会人になりたてで心が沈んでいた私に、何かを伝えようとしてくれたんじゃないかって。

「少し立ち止まって、空を見上げてみなさい」

あの空があったからこそ、私はどこか気持ちが軽くなり、また頑張ろうと思えたのかもしれません。

その写真は今も残っています。たまに眺めながら、私はそっとあの日の空を思い出します。



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