怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

山の化け物 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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田舎の山と洞穴

私が小さい頃、家の周りはどこを見ても山に囲まれていました。道を少し歩けば緑深い森が広がり、その中には大きな洞穴がひっそりと口を開けていました。

祖父はいつもその洞穴の話をするとき、とても真面目な顔をしてこう言いました。

「あそこには化け物が住んでいる。」

小さかった私はその言葉を信じきっていて、洞穴には絶対に近づかないようにしていました。もしかしたら、祖父は私が危険な山へ行かないように、そう言って怖がらせていただけなのかもしれません。でも、その時の祖父の厳しい表情が、どうしても冗談だとは思えなかったのです。

夜道での用事

ある日の夜のことです。祖父と一緒に近所へ用事があり、暗い道を歩いていました。田舎の夜道は街灯も少なく、足元もよく見えないほどの暗さです。風に揺れる木々の音が不気味に聞こえ、子供の私にはそれだけでも十分に怖いものでした。

その時――

「ぐおーーー!」

突然、森の中から響いてきた恐ろしい声。それは遠くから聞こえるのに、耳元で叫ばれたかのように背筋を凍らせる音でした。

祖父の反応

私は驚いて祖父を見上げました。祖父の顔はいつになく真剣で、すぐに小さな声で言いました。

「あの洞穴に住む化け物だ。森に出てきたんだな。」

普段の穏やかな祖父からは想像もつかない険しい表情でした。その様子に、私は一層恐怖を感じました。

「化け物って……本当にいるの?」

震える声で聞いた私に、祖父は短く「いる」とだけ答えました。そして「急いで家に戻るぞ」と私の手を強く握り、足早にその場を離れました。

声の正体

家に帰る途中も、あの声は森の奥から断続的に響いていました。

「ぐおーーー……ぐおーーー……」

子供の私には、ただ恐ろしい音にしか聞こえませんでした。祖父に引っ張られるように家に着くと、祖父はしっかりと戸を閉め、私に「外に出るな」と言い聞かせました。

今思うと

大人になった今、あの声が何だったのかを考えると、おそらく山に住む動物――例えば鹿やイノシシ、あるいは何か別の野生動物の声だったのだろうと思います。

でも、あの時の私は、声の不気味さと祖父の真剣な様子から、完全に「化け物がいる」と信じていました。そして今でも、あの夜の恐ろしい声を思い出すと、心のどこかで「祖父の言葉が本当だったのかもしれない」と感じてしまうのです。

化け物の真実

結局、あの洞穴には一度も近づくことはありませんでした。祖父もそれ以上、化け物の話をすることはなく、ただ「あの山には気をつけろ」とだけ言い続けました。

田舎を離れた今でも、時々思い出します。あの洞穴と、森の奥から響くあの声。そして祖父が言った「化け物」の言葉の真意を。

もしかしたら、あの洞穴には本当に何かが住んでいたのかもしれない――。それは今でも私の中で謎のままです。



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