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古めかしい喫茶店――偽りの笑顔の裏側 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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2週間の長期出張。その出張先での日常にも、少しずつ慣れてきた私は、仕事が終わった後にホテル周辺を散歩するのが日課になっていた。新しい街の風景を歩きながら眺めるのは、忙しい仕事の合間のささやかな楽しみだった。

ある日の夕方、ふと足を進めた先で、古びた商店街を見つけた。細い道の両側には木製の看板や昔ながらの瓦屋根が目立つ店が並び、どこか懐かしい雰囲気を感じさせる。時間も遅く、閉まっている店が多かったが、所々にまだ営業中の店が明かりを灯していた。

「なんかいい雰囲気だな…」

そう思いながら歩いていると、商店街の奥に小さな喫茶店を見つけた。窓からは暖かそうな明かりが漏れ、扉の上には古めかしい字体で「喫茶 菫」と書かれた看板が掛かっている。

「夕飯も兼ねて少し休憩するか」

そんな気軽な気持ちで私は店の扉を押した。

喫茶店の内部

扉を開けると、店内には心地よい木の香りが漂っていた。壁にはアンティーク調のランプが並び、暖色の光が柔らかく空間を包んでいる。木製のテーブルと椅子はどれも古びているが丁寧に手入れされており、店全体がどこか昔の映画のワンシーンのようだった。

カウンターの上には、小さな壺や花瓶が並べられ、奥には年代物のコーヒーミルが置かれている。壁には不思議な絵が掛けられており、風景画かと思えば何か抽象的な模様も混じっている。どこか現実と非現実の境界が曖昧になるような、不思議な空間だった。

客は数人だけ。誰もが静かに座り、それぞれの時間を楽しんでいるように見えた。私は窓際の席に座り、周囲を見渡していたが、しばらくすると店員がやってきた。

店員の対応

店員は30代くらいの男性で、白いエプロンを身につけている。だが、彼の笑顔には何かが欠けていた。口元は引きつったように笑っているが、目はどこか焦点が合わず、ガラス玉のように冷たい光を放っている。その目には生気が感じられなかった。

「……」

彼は無言で、ただ私をじっと見つめている。少し戸惑いながらも、私は簡単なメニューを頼むことにした。

「……えっと、カレーとコーヒーをお願いします。」

すると、彼は無言のまま、微妙にぎこちない動きで注文をメモする仕草をした。声を発する気配はなく、何か人間らしさが欠けている――そんな印象を覚えた。

数分後、料理が運ばれてきた。丁寧に盛り付けられたカレーと湯気の立つコーヒー。見た目は普通だが、ひと口食べてみると驚くほど美味しかった。スパイスが効いていて、深みのある味わいだ。疲れた体に染み渡るような満足感が広がる。

「意外と美味しいな…」

そんな感想を抱きながら、私は料理をすべて平らげた。コーヒーも香り高く、ほっと一息つけるような味だった。

周囲の異変

ふと顔を上げ、周囲を見回した瞬間――私は凍りついた。

店内の客たちが、一斉にこちらを見つめていたのだ。その表情は、先ほどの店員と同じく、無機質でぎこちない笑顔。目はどこか焦点が定まらず、引きつった口元が作り物のように動いている。

「……」

全身が硬直し、視線を外せない。恐怖で体が震え、呼吸が浅くなる。さらに、先ほどの店員もカウンター越しに私をじっと見つめていた。

「アァ……ォォ……カァ……」

突然、店内の全員が声を発した。それは言葉のようでいて、ただの音の羅列に過ぎなかった。会話を模倣しているような、不気味な音が店内に響く。

「な、なんだこれ…」

私は椅子を蹴るように立ち上がり、店を飛び出した。外に出ると冷たい夜風が顔を打ち、現実感が戻る――はずだった。

外での出来事

外に出たものの、周囲の商店街もどこか異様だった。建物は暗く、古びた雰囲気を漂わせ、誰一人として歩いていない。まるでここが現実ではないような錯覚に陥る。

その時、背後から声が聞こえた。

「こんなところに紛れ込んでしまったのか…」

振り返ると、制服を着た警察官のような、しかしどこか警備員にも見える男性が立っていた。彼は私をじっと見つめ、ため息をつくと、穏やかな声で言った。

「もう、ここには来ちゃダメだよ。」

その瞬間、視界がふっと暗転し、気づけば再び商店街に立っていた。だが、先ほどの古びた街並みではなく、現代的な商店街の風景が広がっている。明るい看板が並び、歩道には通行人もいる。

「今の…何だったんだ…?」

心臓の鼓動がまだ早く、冷や汗が背中を伝う。先ほどの出来事は夢だったのか、それとも現実だったのか――判断がつかなかった。ただ、あの無機質な笑顔と不気味な音だけは、頭に焼き付いて離れなかった。



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