目次
散歩から始まる一日
フリーランスで在宅勤務をしているタカシは、毎朝近所を散歩するのが日課だった。自宅での仕事はどうしても気が滅入ることがあるため、散歩で気分をリフレッシュしてから作業に取り掛かるようにしていた。
「よし、今日はどこを歩こうかな。」
タカシの家の周りは静かな住宅街で、歩道には季節ごとの花が咲き、道を曲がるたびに新しい景色が広がる。気持ちが乗った日は少し遠くまで足を伸ばし、普段は通らない裏道を歩いてみることもある。
見慣れない道
その日、タカシはふと思い立ち、住宅街から外れた小道を歩くことにした。
「こんな道あったっけ?」
いつも通る道の一本隣にある細い路地。普段は意識していなかったが、気になって入ってみると、道はすぐに森のような木々に囲まれた静かな場所へと続いていた。
「なんだかいい雰囲気だな。」
鳥のさえずりや木漏れ日が心地よく、タカシはゆっくりと歩みを進めた。
奇妙な公園
10分ほど歩いたところで、タカシは小さな公園にたどり着いた。錆びたブランコ、苔むしたベンチ、そして中央には水が枯れた噴水がある。
「こんなところに公園があったなんて。」
不思議に思いながらも、タカシはその場所に惹かれるようにして噴水の近くまで行った。よく見ると、噴水の縁に小さな石板が埋め込まれており、何かが刻まれている。
「ここに訪れた者よ、時を越えて想いを巡らせ。」
「……なんだろう、この言葉。」
詩のようでもあり、警告のようにも聞こえるが、特に気にせず噴水の縁に腰を下ろした。
異変の始まり
タカシがしばらく公園の静けさを楽しんでいると、空気が微かに変わったことに気づいた。鳥の声が止み、風もぴたりと止まる。
「え……?」
周囲の音が消え、何も聞こえなくなった。ただの静寂ではなく、まるで世界そのものが凍りついたかのような感覚だった。
ふと、タカシは噴水の中に視線を落とした。水がないはずの噴水の底に、鏡のように光るものが現れていた。
「何これ……鏡?」
タカシは吸い寄せられるようにその鏡を覗き込んだ。
映し出される光景
噴水の中の鏡には、タカシの姿が映っていた。しかし、それは現在のタカシではなかった。
スーツを着て、通勤電車に揺られる若い頃のタカシが映っている。
「あれ……これ、俺だよな。でも、こんなにスーツを着て仕事してたの、もう10年以上前だ……。」
次の瞬間、映像が切り替わり、今度は子供の頃のタカシが映った。公園で友達と笑いながら遊ぶ自分の姿だ。
「これ……なんで……」
さらに映像は切り替わり、まだ見たことのない未来のタカシが映った。部屋で笑顔で仕事をしている姿や、どこかのカフェで誰かと談笑している様子が次々と現れる。
時間が戻る
その不思議な光景に見入っていると、突然背後から誰かの声がした。
「その鏡はあなたの時間を映すんです。」
驚いて振り返ると、そこには白髪の老人が立っていた。いつの間にか公園に現れたその老人は、不思議と威圧感のない柔らかな雰囲気を纏っていた。
「ここで見たことは、あなたの未来を変えるヒントになります。ただ、忘れないでください。鏡が見せるのは可能性の一つだということを。」
老人が静かにそう言うと、公園の空気がまた少しずつ動き始めた。鳥の声が戻り、風が吹き抜ける音が聞こえる。
「あの、あなたは――」
タカシが聞こうとした瞬間、老人の姿は消えていた。
元の道へ
タカシは不思議な気持ちを抱えながら、元の道を引き返した。振り返ると、あの公園は木々に隠れてもう見えなくなっていた。
「夢……だったのかな。」
家に戻ったタカシは、鏡の中で見た未来の自分を思い出した。笑顔で仕事をしていた自分、誰かと談笑していた自分――それは、少し肩の力を抜いた、穏やかな姿だった。
その日から、タカシは朝の散歩の途中でふと足を止め、自分の歩む道を見つめ直すようになった。
あの公園は二度と見つからなかったが、タカシの中で確かに何かが変わり始めていた。
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