在宅でフリーランスの仕事をしている私にとって、毎朝の散歩は欠かせない日課だ。気分転換をしてから仕事に取りかかると、頭が冴えて効率が良くなる気がする。
その日もいつものように近所を歩いていた。住宅街の静かな朝の空気に包まれながら、家々の庭先の花や通りすがりの猫を眺めるのが、ささやかな楽しみだった。
目次
奇妙な脇道
散歩ルートの中盤、ふと見慣れない脇道が目に留まった。それはいつもの道沿いにひっそりと続いている細い道で、今まで気づかなかったことが不思議なくらい自然に溶け込んでいた。
「こんなところに道、あったっけ?」
不思議に思いつつも、興味が湧いてその道に足を踏み入れた。舗装はされておらず、土と小石が混ざったような道だ。左右には古びた木々が生い茂り、どこか昭和の面影を感じさせるような雰囲気が漂っている。
古びた神社
道を進むと、やがて小さな神社にたどり着いた。鳥居は苔むしており、社殿も使われていないようで荒れている。
「こんな場所に神社があったなんて……」
少し驚きつつ、鳥居をくぐってみた。参拝するわけではなかったが、なんとなく境内の様子が気になり奥へ進むと、神社の隅に古い石碑が立っているのが目に入った。
石碑には、何か文字が彫られていたが、風化していてほとんど読めない。しかし、目を凝らしていると、微かにこう刻まれているのが分かった。
「この先の道を進む者、過去の記憶と出会う」
不思議な記憶
意味が分からず首をかしげながらも、さらに奥へと足を進めた。すると、急に周囲の空気が変わったように感じた。風の音が消え、あたり一面が静寂に包まれる。
その時、不意に見覚えのある景色が目の前に広がった。
「ここ……」
それは、子どもの頃に家族旅行で訪れた田舎の風景だった。目の前には懐かしい木造の小さな家と、当時の記憶が鮮明に蘇るような庭の風景が広がっている。
過去の風景の中で
さらに驚いたのは、その家の縁側に座っている祖母の姿だった。祖母は数年前に亡くなったはずなのに、そこにいる彼女は生き生きとしていて、まるで昨日まで一緒にいたかのようだった。
「いらっしゃい。ずいぶん大きくなったねえ。」
祖母はにこやかに笑いながら、私にお茶を勧めてきた。
「これ……夢じゃないよな……?」
半信半疑のまま縁側に座り、祖母としばらく話をした。話の内容は些細なことで、子どもの頃好きだった遊びや、祖母がよく作ってくれた料理の話などだった。
しかし、気づけば時が経ち、祖母がふとこう言った。
「そろそろ帰りなさい。仕事が待ってるんだろう?」
現実に戻る
その言葉を聞いた瞬間、景色が一気にぼやけた。目の前の風景が崩れ、気づけば私は神社の境内に立っていた。
時計を見ると、散歩を始めてからまだ30分ほどしか経っていない。
あの体験は一体何だったのか――。
家に帰り、仕事を始めたものの、あの出来事が頭から離れない。しばらくして、改めてあの神社を探しに行ったが、例の脇道も神社も見つからなかった。
今でも残る感覚
あれから数年が経つが、あの出来事は今でも鮮明に覚えている。時々、祖母の笑顔が浮かぶと、あの不思議な道と神社が恋しくなる。
あの道がどこに続いていたのか、そして再び行けるのか――それは分からない。だが、祖母と過ごした懐かしいひとときを与えてくれたその道を、僕は「奇跡の道」と呼び、心の中に大切にしまっている。
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