目次
嫌でたまらない仕事
タクヤは、数か月に及ぶ長期出張で地方の工場に派遣されていた。都市部に住んでいたタクヤにとって、地方での仕事は孤独でつらいものだった。
仕事自体も苦痛だったが、出張という状況がそれをさらに悪化させていた。知らない土地で、知らない人たちに囲まれ、仕事のプレッシャーに押しつぶされそうな毎日。
「こんな生活、早く終わってほしい……でも、稼がないと生きていけないしな。」
休日になってもやる気が出ず、部屋でだらだらと過ごすのが常だった。
外出のきっかけ
そんなある日、タクヤは部屋にこもる生活に耐えられなくなり、近くをぶらぶらと歩き回ることにした。
「せっかくの休日だし、少しは外に出るか。」
人気の少ない地方の街並みを歩きながら、偶然目に留まった細い路地に入ると、そこには看板のない古い建物が立っていた。
「こんなところに何かあったっけ?」
引き寄せられるようにその建物に近づいてみると、入り口には小さな手書きの文字があった。
「疲れた人、歓迎」
不思議な場所
タクヤは半信半疑で扉を押し開けた。中はこぢんまりとした空間で、古びたソファや机が並んでいる。どこかカフェのような雰囲気だが、飲み物を提供している様子はない。
部屋の中央には年配の女性が一人座っており、タクヤを見るなり穏やかな笑顔を浮かべた。
「いらっしゃい。疲れた顔をしてるね。」
不思議と緊張感が解け、タクヤはその女性に勧められるまま、ソファに腰を下ろした。
奇妙な癒し
しばらく何も言わずに座っていると、背後から微かな音楽が聞こえ始めた。それは自然音のような、懐かしいメロディのような、説明しがたい心地よい音だった。
音に耳を傾けているうちに、体の力が抜けていくのを感じた。
「ここ、なんなんですか?」
タクヤが尋ねると、女性はゆっくりと答えた。
「ここはね、疲れた心を少しだけ軽くする場所なんだよ。」
不思議な言葉だったが、その場の雰囲気があまりに心地よく、タクヤは深く考えることなく頷いた。
通い詰める日々
それ以来、タクヤは休日になるたびにその場所を訪れるようになった。そこでは何をするでもなく、ただ座って音を聞いたり、女性と他愛のない会話をしたりして過ごす。
「仕事で嫌なことがあったなら、ここに置いていけばいいのよ。」
女性の言葉に従うように、タクヤは仕事の愚痴を吐き出した。すると不思議なことに、胸の中の重たい気持ちが少しだけ軽くなるような感覚があった。
小さな変化
数週間が経つ頃には、タクヤの心に少しずつ余裕が生まれ始めていた。仕事が辛いことに変わりはないが、どこかで「またあの場所に行けばいい」という安心感が心を支えてくれていた。
「ここに来てなかったら、どうなってたんだろうな。」
タクヤはそんなことを思いながら、女性にお礼を伝えることが増えていった。
場所が消える
出張の終わりが近づいたある日、タクヤはいつものようにその場所に行こうとした。
しかし、建物があったはずの場所は更地になっていた。そこには、数日前までの面影すら残っていない。
「……え?」
周囲の人に聞いても、「そんな建物は知らない」と言われるばかりだった。
残る気持ち
不思議な出来事に困惑しつつも、タクヤはなぜか心が穏やかだった。あの場所で癒された時間が確かに自分の中に残っているからだ。
出張が終わり、タクヤは再び都会の生活に戻ったが、あの場所での体験が彼の心を支え続けた。仕事が嫌になることがあっても、あの穏やかな時間を思い出すことで乗り越えられる気がした。
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