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奇妙な水 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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駅前の水売り

タカシはいつもと変わらない仕事帰りの夜、最寄り駅を出たところでふと足を止めた。

駅前の広場に、簡素なテーブルが出されており、その上にペットボトルが整然と並べられている。テーブルには手書きの看板が立てかけられていた。

「不思議な水 1本500円」

「不思議な水?」

タカシは怪しいと思いつつも、つい気になって立ち止まった。テーブルの後ろには、若い女性が一人立っている。可愛らしい顔立ちだが、どこか物憂げな表情をしていた。

周囲には誰もおらず、ペットボトルを手に取る客の姿もない。全然売れていないんだろうと思いながら見ていると、女性と目が合ってしまった。

水を買う

目が合った瞬間、女性がにっこりと微笑んだ。

「いらっしゃいませ。不思議な水、いかがですか?」

その声にはどこか不思議な響きがあり、タカシは断るタイミングを失ってしまった。

「……じゃあ、1本だけ。」

手渡されたペットボトルは、普通の透明な水。特に特別なラベルもなく、どこか無地のような印象を受けた。

「ありがとうございます。これは、あなたの『必要なもの』を見つけるお手伝いをする水です。」

「え?」

タカシが聞き返そうとしたが、女性は柔らかい笑顔を浮かべるだけだった。

水を飲む

家に帰り、買った水のことを思い出したタカシは、ペットボトルを手に取った。

「『必要なもの』ってなんだよ。まあ、普通の水だよな。」

半信半疑のままキャップを開け、一口飲んでみる。喉を通る感覚は、確かにただの水だった。だが、その瞬間、目の前がふっと暗くなり、次の瞬間――

映し出される記憶

タカシの目の前に、懐かしい光景が広がっていた。

それは子供の頃、近所の空き地で遊んでいた時の記憶だった。小さな手で作った泥団子を友達と笑いながら投げ合っている。

「あれ……なんで、こんなことを……?」

さらに記憶が切り替わり、次に映し出されたのは、高校時代に告白して失敗した時の光景。相手の表情、胸の痛み――そのすべてが鮮明に蘇る。

水の効果

タカシは気づいた。この水を飲むと、自分の心の奥底にしまい込んでいた記憶や感情が映し出されるのだ。

次に目の前に現れたのは、数年前に亡くなった母親の笑顔だった。

「タカシ、元気でいるの?」

母の優しい声が耳元で響いた気がして、タカシの目から自然と涙がこぼれた。

必要なもの

不思議な感覚が収まると、タカシは静かな部屋の中で深呼吸をした。

この水は「必要なものを見つける」と言っていた。見つけたのは、自分が忘れていた思い出や、心の奥に押し込めた気持ちだった。

「ありがとう……なんだか、少し楽になった気がする。」

タカシはそのペットボトルを大事に残し、次の日、再び駅前の広場を訪れた。しかし、あの水売りの女性もテーブルも、跡形もなく消えていた。



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