目次
【プロローグ】
終電間際、仕事帰りの疲れた体を引きずるように駅前を歩いていた隆司は、駅前の歩道に小さなテーブルを出している店を見つけた。
看板には手書きで「特別な水」とだけ書かれている。その上には無造作に並べられたペットボトルが置かれていた。
駅前の賑わいにも関わらず、その店には誰も近寄らず、ひっそりとした雰囲気が漂っていた。
「こんなの、誰が買うんだろうな…」
そんなことを考えながら横を通り過ぎようとしたその時、店員と目が合ってしまった。
【若い女性の店員】
そこに立っていたのは、20代半ばくらいの若い女性だった。可愛らしい顔立ちで、どこか儚げな雰囲気を漂わせている。
「どうぞ、一本いかがですか?」
疲れ切った隆司は最初、断ろうと思ったが、売れない様子の店と彼女の微笑みが何となくかわいそうに思えて、つい財布を取り出した。
「じゃあ、一本だけ。」
女性は嬉しそうに笑い、綺麗にラッピングされたペットボトルを手渡してくれた。
「ありがとうございます。この水には特別な力があります。きっとお役に立てると思いますよ。」
その言葉に違和感を覚えつつも、隆司は会釈だけしてその場を去った。
【水の違和感】
家に帰り、何気なくそのペットボトルを眺めていると、妙なことに気づいた。
ラベルには、どこのメーカーのものかも、成分表示も書かれていない。ただ、中央にシンプルな文字で「知る水」とだけ記されている。
「知る水…?なんだこれ。」
興味を引かれた隆司はキャップを開け、一口飲んでみた。
水自体は無味無臭で、特に変わったことは感じなかった。しかし、飲んだ瞬間、不思議な感覚に襲われた。
【過去の記憶】
突然、幼い頃の記憶が頭の中に浮かんできた。それは、自分がまだ小学生だった頃、母親に叱られた後に友達と遊んだ帰り道の出来事だった。
川辺で遊んでいた時に、友達がふざけて靴を落とし、隆司は必死にその靴を拾いに行った。その時、母親から受け取ったおにぎりを友達に渡しながら笑い合った記憶が鮮明によみがえる。
「こんな記憶、ずっと忘れてたのに…」
水を飲むことで過去の断片が蘇る。これが「知る水」の力なのだろうか?
【さらに深い記憶】
翌日もその水を飲むと、また別の記憶が蘇った。今度は、高校時代に好きだった人との些細な会話や、大学の試験前に焦りながらも友達と励まし合った場面だった。
飲むたびに記憶が細かく蘇り、それがどれも、隆司が普段思い出すことのない出来事ばかりだった。
「この水、もしかして…全部の記憶を呼び覚ますのか?」
隆司は次第に、その水に魅了されていった。
【未来を知る】
数日後、最後の一口を飲み干した瞬間、これまでと違う映像が頭に浮かんだ。それは「未来」の光景だった。
自分が見知らぬ街で歩きながら誰かと話している。相手は若い女性で、どこか見覚えがある。その女性がこう言うのだ。
「これで全部です。これがあなたに必要な記憶でした。」
「誰なんだ…?」
映像が途切れると同時に、隆司はその女性が駅前で水を売っていた店員であることに気づいた。
【再び駅前へ】
次の日、どうしても気になった隆司は、再び駅前に向かった。しかし、店はどこにもなく、あの場所はただの歩道になっていた。
「ここにあったはずなのに…」
その後、いくら探しても「知る水」を売る店を見つけることはできなかった。
【エピローグ】
それ以来、隆司は何気ない日常の中で、これまで埋もれていた思い出を時折思い出すようになった。そして、それが自分にとっていかに大切なものかに気づくようになった。
あの水が本当に何だったのかは分からない。だが、あの水は確かに、彼の心に眠っていた「大切な何か」を目覚めさせてくれたのだ。
もし駅前で「特別な水」を見つけたら、それはあなた自身の物語を教えてくれるものかもしれません。
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