怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

赤字の紙が告げるもの 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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その男性――仮に佐藤さんとしよう――は、仕事が忙しい日々を送っていた。夜遅くに帰宅するのが常だったが、その日は特に疲れていた。

真夜中、ようやく自宅の鍵を開けて中に入ると、家は静まり返っていた。

妻と子どもたちはすでに寝ている。

スーツを脱ぎながら、「やっと休める」と思ったその時だった。

タッ……タッ……

誰かが歩く音がリビングから聞こえた。

足音と赤い紙

「妻か子どもが起きてきたのか?」

そう思ってリビングを覗いた佐藤さんは、驚愕した。

そこには誰もいなかった。

しかし、テーブルの上に見慣れない紙が一枚置かれていた。

赤いインクで、意味不明な文字がびっしりと書かれている。

「これ、何だ……?」

一瞬、子どもたちのいたずらかと思ったが、内容は奇妙すぎた。記号や文字の羅列が不規則に並び、まったく意味が分からない。

翌朝、妻と子どもたちに尋ねてみても、誰もそんな紙を置いた覚えはないという。

「誰がこんなものを?」

気味悪さを覚えながらも、その紙をゴミ箱に捨てた。

増えていく紙

しかし、それは始まりに過ぎなかった。

翌日、また深夜に帰宅した佐藤さんは、同じように赤いインクで文字が書かれた紙を見つけた。

今度はリビングのテーブルではなく、玄関に置かれていた。

内容はやはり意味不明な記号や文字の羅列だ。

気持ち悪さを抑えつつ、それも捨てたが、その日から毎晩、紙が増えていくようになった。

捨てても捨てても

最初は捨てることに抵抗はなかった。

「何かのいたずらだろう」

そう考えていたのだ。

だが、ある晩、彼が紙を捨てようと手に取った瞬間、背筋に冷たいものが走った。

紙に触れた瞬間、視線を感じたのだ。

それも、真後ろから――。

振り返ったが、そこには誰もいなかった。

手を出せなくなる

それ以降、紙を捨てることができなくなった。

放置するしかないと決めた佐藤さんだったが、紙は日に日に増えていき、リビングや廊下、さらには寝室の床にまで散らばるようになった。

家中に赤い文字が広がる中、彼の心は次第に追い詰められていった。

さらに不気味なことに、紙に書かれた文字列が、どこか見覚えのある形に変わり始めた。

「これ……家族の名前?」

確かに、紙の中に自分や家族の名前に似たものが混ざり始めていたのだ。

家を出る決断

その晩、佐藤さんはついに決断した。

「もうこの家にはいられない。」

翌朝、家族を説得し、すぐに引っ越しの準備を始めた。赤い紙が増え続ける家から逃げ出すために。

だが、引っ越しの準備を進める中、佐藤さんはあることに気づいた。

「紙がない……」

いつも散乱しているはずの赤い紙が、どこにも見当たらなかったのだ。

まるで、彼が家を出ると決めたことを見透かしたかのように――。

後日談

引っ越し後、佐藤さんは穏やかな日々を取り戻した。新しい家では赤い紙が現れることはなかった。

だが、ある日、旧居の前を通りかかった彼は、ぞっとした。

リビングの窓越しに、テーブルの上に何かが置かれているのが見えた。

それは……赤い文字がびっしりと書かれた紙の束だった。



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