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双眼鏡に映る「海の女」 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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プロローグ

海辺に行くと、水平線の向こうには広がる果てしない景色がある。その静寂と美しさに心を奪われる人も多いだろう。

だが、もしその広がる海の向こうに、見てはいけないものが映ってしまったら――。

これは、ある男性が海辺で体験した奇妙な出来事の話である。

第一章:双眼鏡を手に

主人公の拓也(たくや)は休日になると、よく海辺の展望台に行き、双眼鏡で景色を眺めるのが趣味だった。

「海を眺めていると、なんか心が落ち着くんだよな。」

水平線に浮かぶ船や、時折見かけるイルカの群れを観察するのが何よりの楽しみだった。

その日も、拓也はいつものように双眼鏡を持って展望台にやってきた。双眼鏡を覗き込みながら、穏やかな海の風景を楽しんでいると、水平線近くに小さな人影が見えた。

「船の上に誰かいるのかな?」

そう思い、ピントを調整すると、そこには海の中に立つ一人の女性の姿が映っていた。

第二章:海の中の女性

その女性は長い黒髪を持ち、濡れた白いワンピースを着ていた。

「……おかしいな、あんな場所に人がいるなんて。」

周囲に船や浮き具らしきものは見当たらない。普通なら、あの場所で人が立つことなどできるはずがなかった。

さらに奇妙だったのは、女性の表情だ。彼女は無表情で、どこか虚ろな目をしている。拓也が観察していることを知っているかのように、じっとこちらを見つめているようだった。

背筋に寒気を覚えた拓也は、思わず双眼鏡を下ろした。しかし、肉眼ではその場所に何も見えない。ただ穏やかな海が広がっているだけだった。

第三章:再び映る姿

拓也は気になってもう一度双眼鏡を覗いてみた。すると、さっきよりも女性が近づいているように見えた。

「どういうことだ……?」

彼女は相変わらずじっとこちらを見ている。だが、近づいてきた分、その表情がはっきり見えるようになった。青白い顔と真っ黒な瞳。その瞳には、底知れない闇が広がっているようだった。

恐怖に駆られた拓也は、双眼鏡を投げ捨てそうになったが、視線を外すことができなかった。

第四章:声が聞こえる

そのとき、不意に耳元で女性の声がした。

「見つけた……。」

誰もいない展望台で、明らかに他人の声がしたことに、拓也はパニックに陥った。慌てて周囲を見回したが、展望台には誰もいない。

そして再び双眼鏡を覗くと、彼女がさらに近づいていた。もう、海の中ではなく、波打ち際に立っている。

彼女の唇が動いているのが見えたが、声は聞こえない。だが、確かに言っている。

「もっと、近くで見て。」

第五章:消えない影

拓也はその場から逃げるように展望台を後にした。しかし、その夜、眠りにつこうとすると、双眼鏡で見た彼女の姿が瞼の裏に浮かんできた。

翌日も展望台に行く気にはなれなかったが、双眼鏡を覗きたい衝動に駆られ、結局家の中で試してしまった。すると、部屋の窓越しに海の彼方が映り、そこに彼女が立っているのが見えた。

「どうして、家の中からでも……?」

彼女は今度こそ確実にこちらを見て、こう呟いた。

「もう逃げられない。」

結末

その後、拓也は双眼鏡を使うことをやめ、海辺にも近づかなくなった。しかし、どこにいても、ふとした瞬間に彼女の姿が見えるようになった。

最初は窓の外に、そして次第に、鏡やガラス越しに――。

最後に彼女が現れたのは、拓也が眠ろうとして閉じた瞼の裏だったという。

彼の失踪は、彼女の囁きとともに語られることになる――

「見つけた……。」



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