診察室には静かな音楽が流れ、患者の男性は少し戸惑った表情を浮かべて椅子に座っていた。質問が一通り終わると、彼はためらいながら話し始めた。
「先生、最近、ちょっと怖い夢を見てしまって……夢だって分かってるんですけど、起きた後もしばらく嫌な感じが残るんです。」
私は彼の不安を和らげるように促した。
「どんな夢だったんですか?詳しく教えていただけますか?」
彼は少し考え込んでから、夢の内容を語り始めた。
「夢の中で、普通に家のリビングでくつろいでいるんです。特に何か変わったこともなくて、テレビを見たり、スマホを触ったりして過ごしていました。それで、ちょっと近くのコンビニに行こうと思って玄関に向かったんです。」
彼はその時の状況を思い出しながら続けた。
「でも、玄関に着いた瞬間、『あれ?』って思ったんです。いつもそこにあるはずの玄関の扉がなくなっていて、ただの壁になってるんですよ。」
「その時、どんな感情が湧いてきましたか?」
「最初は、夢だって気づかずに、『何これ、どういうこと?』って混乱しました。扉がないなんておかしいじゃないですか。でも、夢の中では現実の感覚そのままで、壁を触っても本当に固くて……扉が消えたんだって実感した時、急に怖くなってきて。」
彼はその時の恐怖を思い出し、少し肩をすくめた。
「その後、何か他の方法を試しましたか?」
「もちろんです。玄関がダメなら窓から出ようと思って、家中の窓を調べて回りました。でも、どの窓も開けようとしてもビクともしなくて……。ガラスにひびが入るような感じもなく、まるで家全体が牢屋みたいに閉じ込められている感覚でした。」
彼はその時の焦りを思い出し、言葉を続けた。
「どんどんパニックになってきて、最後にはリビングに戻ったんです。でも、リビングもどこか不気味な感じがしてきて……外の風景は見えているんですけど、絶対にそこに行けないって分かるんです。それが一番怖かったですね。」
「その夢の中で、外に出られないことに対して、何か他の行動を起こしましたか?」
「ドアを見つけようと壁を叩いてみたり、大声で叫んで助けを求めたりもしました。でも、誰も来ないし、壁はまるで鉄のように硬くて何もできないんです。そのうち、外に出ること自体を諦めそうになって……『このまま一生この家から出られないのか』って考えた瞬間、すごく怖くなりました。」
彼はその時の絶望感を思い出し、少し俯いた。
「その夢から目が覚めた時、どんな気持ちが残っていましたか?」
「目が覚めた時は、しばらく現実なのか夢なのか分からなくて、玄関に行って扉がちゃんとあることを確かめました。扉があるのを見てホッとしたんですけど、まだ心の中にざわざわした感じが残っていました。あの感覚、本当に嫌でした……。」
彼の言葉から、夢が彼にどれだけ強い影響を与えたのかが伝わってきた。私はその夢が彼の心に何を訴えようとしているのか考えながら、慎重に尋ねた。
「その夢の中での閉ざされた家は、もしかすると、あなたの心が何かに閉じ込められている感覚を反映しているのかもしれませんね。最近、何かから解放されたいとか、自由になりたいと思うことはありませんか?」
彼は少し考え込み、静かに頷いた。
「確かに、最近仕事が忙しくて、どこにも行けないような気持ちが続いていました。もしかしたら、そんな気持ちが夢に出てきたのかもしれませんね……。でも、あの夢をもう一度見るのは絶対に嫌ですね。」
診察室を後にする彼の背中を見送りながら、私はその夢が彼にとってどれほどの意味を持つのかを思い返していた。夢の中の閉ざされた家――それは彼の心の奥底にある束縛感や自由への憧れを映し出していたのかもしれない。彼がその閉じ込められた感覚から解放され、心から自由を感じられる日が来ることを願っていた。
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