友人の斉藤とは、学生時代からの仲だ。社会人になってからも飲みに行くことが多い。そんなある日、彼から珍しく誘いがあった。
「ちょっと変わった深夜バスがあるんだけど、一緒に乗らないか?」
聞けば、そのバスは噂の「謎の深夜バス」らしい。普段は通らない路線で、行き先も不明。ただし、乗ると忘れられない体験ができるという。
「怪しいな……」と思いながらも、面白そうだと思った僕は、誘いに乗ることにした。
目次
深夜のバス停
当日、夜の11時半過ぎに集合した。待ち合わせ場所は住宅街の外れにある古いバス停だった。
人気のない静かな道で、照明は薄暗い。周囲の住宅から漏れるわずかな灯りが心細さを煽る。
「本当に来るのか?」
僕が聞くと、斉藤はスマホを見ながら「あと5分で来る」と答えた。
やがて、遠くからエンジン音が聞こえ、古びたバスがゆっくりと現れた。
謎の深夜バス
バスは何の表示もない灰色の車体で、窓から中はよく見えない。ドアが開き、運転手が無表情でこちらを見ていた。
「行き先はどこですか?」
斉藤が尋ねたが、運転手は無言で手を振り、早く乗るよう促した。
不安を感じながらも、僕たちはバスに乗り込んだ。中は意外にも清潔で、数人の乗客が座っていたが、みんな無言で前を向いていた。
バスが動き出すと、窓の外には見慣れた街並みが流れていった。しかし、それも次第に奇妙な風景へと変わっていった。
見たことのない街
窓の外に広がっていたのは、まるで異世界のような街並みだった。
建物はどれも異様に高く、光の色が現実のものとは違う。道路には車の代わりに宙に浮かぶ乗り物が行き交っている。
「これ、どこだ?」
僕が斉藤に尋ねても、彼は困惑した顔で首を振るばかりだった。
他の乗客も誰一人として騒がないのが不気味だった。彼らはみな、窓の外を見るでもなく、ただ前を見つめているだけだった。
バスが止まる
やがて、バスはゆっくりと止まり、運転手が僕たちにだけ視線を向けた。
「降りるのか?」とでも言いたげなその目に促され、僕と斉藤は意を決して降りることにした。
降りた先は広場のような場所で、周囲には奇妙な店や建物が立ち並んでいた。
奇妙な出会い
ふと気づくと、一人の少女がこちらを見ていた。
「初めての人たちだね。迷い込んだの?」
彼女は普通の言葉を話しているのに、どこか違和感を覚える口調だった。
「ここはどこ?」
斉藤が聞くと、少女は少し笑って答えた。
「ここは『間の街』だよ。帰りたいなら、次のバスに乗りな。」
次のバス――それがいつ来るのかを聞こうとしたが、少女の姿はいつの間にか消えていた。
次のバス
やがて、再びバスがやってきた。
他の乗客はなく、僕たちだけが乗り込むと、運転手は無言でドアを閉めた。
再び見知らぬ街並みを抜け、やがて見慣れた風景が窓の外に戻ってきた。
時計を見ると、ほんの数分しか経っていないように思えたが、街の様子はどこか違っていた。
帰ってきたのか
バスを降り、僕たちはそれぞれ家に帰った。しかし、どこか現実感が薄い気がした。
次の日、斉藤に連絡を取ろうとしたが、彼は電話にもメッセージにも応じなかった。
何度も訪ねたが、斉藤が住んでいたはずのアパートは、まるで最初から彼が存在していなかったかのように空っぽだった。
あの夜、僕たちが乗ったバスは一体何だったのか――そして、斉藤はどこに行ったのか。
今でも、駅前でバスが来るのを待つ時、あの灰色の車体が現れるのではないかと冷や汗が流れる。
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