怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

雨の日にだけ現れる不思議な街 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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私は都会の片隅で暮らす、ごく普通の会社員です。しかし、数年前に体験した出来事が今も心に残り続けています。それは、雨の日にだけ現れる不思議な街についての話です。

その街との出会い

ある梅雨の季節、仕事で疲れていた私は、最寄り駅からの帰り道を歩いていました。その日はしとしとと雨が降り続き、街灯の光が濡れた路面にぼんやりと反射していました。傘をさしながら歩いていると、普段通らない路地に差し掛かりました。

「こんな道あったかな?」

そう思いつつも、雨宿りできそうな店を探して路地に入りました。狭い路地を進むと、突然目の前に開けた空間が現れたのです。そこには見たこともない街並みが広がっていました。古びたレンガ造りの建物、石畳の道、そして柔らかいランプの明かりが、まるで異国のような雰囲気を醸し出していました。

奇妙な街の様子

その街はどこか静かでした。雨の音が響いているはずなのに、街の中だけは妙に静かで、耳に届くのは風鈴のような涼やかな音色だけでした。店の看板には見たことのない文字が書かれ、言語すら分かりません。それでも、街にはどこか懐かしさを感じる温かさがありました。

道沿いにはいくつかの小さな店が並んでおり、中には手作りのアクセサリーや古い本を売る店がありました。店主らしき人たちが無言で微笑みながら私を見ているのが、どこか奇妙で心に引っかかりました。

街の住人たち

ふと気づくと、街には他にも人がいました。傘をささずに濡れたまま歩く人や、軒先で雨を眺めている老人。彼らは皆、どこか透明感があり、肌の色や服装がぼんやりとしているのです。

何かおかしいと感じた私は、目についた店に入ることにしました。その店は古いカフェのような造りで、木の椅子とテーブルが並び、奥にはカウンターがありました。私が席に座ると、店主らしき女性が静かにコーヒーを差し出してきました。

「いくらですか?」と尋ねると、彼女はただ静かに微笑むだけ。仕方なくコーヒーを口にすると、それは驚くほど美味しく、同時にどこか懐かしい味がしました。

街の出口

しばらく街を歩いていると、ふと気がつきました。街には時計や時間を示すものが一切ないのです。次第に不安を覚え、元来た道を引き返そうとしました。しかし、道を戻るたびに景色が変わり、同じ場所に戻ることができません。

焦りながら歩いていると、突然背後から声がしました。

「戻るなら今だよ。」

振り返ると、そこには傘をさした見知らぬ青年が立っていました。青年は私をじっと見つめながら、「この街は雨の日しか開かない。そして次に開かれる保証はない」と言いました。

私は何も言えず、その青年が指差す方向へ走り出しました。すると、突然視界が揺れ、次の瞬間にはいつもの街並みが目の前に広がっていました。振り返ると、あの不思議な街は跡形もなく消えています。

その後

それ以来、雨の日には無意識にあの街を探してしまいます。あの静寂、風鈴の音、そして懐かしいコーヒーの味…。しかし、二度とその街に迷い込むことはありませんでした。

時折、夢であの街の風景を思い出します。そして目が覚めるたびに思うのです。もしあのまま街に留まっていたら、私は戻ってこられなかったのではないか、と。

それが雨の日だけ現れる不思議な街の話です。あなたがもし雨の日に見たことのない道を見つけたなら、少しだけ気をつけてください。その道の先にある街が、戻れる場所であるとは限らないのです。



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