目次
奇妙な体験の始まり
私の人生には、数えるほどしかないけれど、不思議な体験がある。その中でも特に印象深いのが、「乾かし屋」という奇妙なお店との出会いだ。
最初にその店を見つけたのは、私が高校生の頃。大雨の中、自転車通学をしていた時のことだった。
初めての「乾かし屋」
学校帰り、予想外の豪雨に見舞われ、私はずぶ濡れになりながら自転車を漕いでいた。冷たい雨に震えながら商店街を通り抜けようとすると、ふと目の端に小さな看板が映った。
「乾かし屋 一回500円」
その看板が出ている店は、古い木造の平屋で、見覚えのない建物だった。普段なら気にも留めないが、その時は寒さと濡れた服があまりに不快で、つい吸い寄せられるように店の中に入った。
「いらっしゃいませ。」
店内に入ると、年齢不詳の男性がカウンターの奥に立っていた。彼はやけに落ち着いた声で言った。
「全身を乾かします。一回500円です。」
半信半疑だったが、ポケットに500円玉が入っていた私は、言われるがままお金を渡した。すると彼は笑顔で「こちらへどうぞ」と指差し、薄暗い奥のスペースに案内してくれた。
一瞬で乾く体験
奥のスペースには、シンプルな椅子と奇妙な装置が置かれていた。
「そこに座ってください。」
指示通り椅子に腰掛けると、店主がスイッチを押した。次の瞬間、まるで温かい風に包まれるような感覚が体を通り抜けた。
「どうです?乾きましたよ。」
言われて服や髪を触ってみると、濡れていたはずのものがすべて乾いている。それだけでなく、泥で汚れていた靴までピカピカになっていた。
「何これ、どうなってるんですか!?」
驚く私に、店主は微笑んでこう言った。
「仕組みは企業秘密ですよ。でも、お気に召したならまたどうぞ。」
その言葉を最後に店を後にしたが、あの体験が忘れられなかった。
乾かし屋との再会
それから数年が経ち、私は社会人になった。あの店のことを思い出すことはあっても、場所を見つけられず幻だったのではと思い始めていた。
ところが、ある雨の日、再びあの店に出会うことになった。
仕事帰り、突然の豪雨に遭い、タクシーも捕まらず、びしょ濡れで駅まで歩いていると、目の前にあの「乾かし屋」の看板が現れたのだ。
「また会いましたね。」
変わらない店主の声と微笑み。あの日と同じように500円で全身を乾かしてもらった。
消える店
その後も、雨に降られたり川に落ちたりと、びしょ濡れで困る度に「乾かし屋」が現れた。
不思議だったのは、その店がいつも違う場所に現れることだ。普段はどこにあるのかもわからず、困った時に限って目の前に現れる。そして乾かしてもらった後は、次の日には跡形もなく消えている。
一度友人を連れて行こうとしたが、その日は店を見つけることができなかった。
最後の訪問
つい最近、私は最後に「乾かし屋」を訪れた。
旅行中、足を滑らせて池に落ち、全身泥まみれで途方に暮れていると、目の前にあの看板が現れたのだ。
「久しぶりですね。」
店主は相変わらずの笑顔だったが、今回は少しだけ寂しそうに見えた。
「これが最後かもしれません。」
意味深な言葉を残し、いつものように乾かしてくれたが、それ以来、あの店には一度も出会えていない。
不思議な記憶
今でも雨の日にはふと、あの「乾かし屋」を思い出す。もし再び出会えたら、あの店の正体を聞いてみたいと思うが、あの店は困った時にしか現れない。
「あなたも雨に降られたり、困った時には、どこかで“乾かし屋”に出会うかもしれません。その時は、ぜひ立ち寄ってみてください。きっと、一瞬で不快感を吹き飛ばしてくれるでしょう。」
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