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触れると“思い出”が映る鏡――失われた奇跡のアイテム 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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手のひらサイズの不思議な鏡

その鏡との出会いは、偶然だった。

休日、たまたま立ち寄った骨董品店で、一つだけ異彩を放つアイテムが目に留まった。手のひらサイズの古びた鏡で、真鍮のフレームに精緻な模様が彫られていた。

「それ、ただの鏡じゃないですよ。」

店主の言葉に心をくすぐられた私は、その鏡を購入した。値段も手頃で、ちょっとした装飾品くらいに思っていた。

「良い思い出が見られるかもしれません。」

店主の言葉の意味が分かったのは、それからすぐのことだった。

鏡の力

家に帰り、購入した鏡をじっと眺めていると、不意に手が触れた瞬間――何かが映し出された。

そこには、小学生の頃の自分がいた。

夏の日差しが降り注ぐ校庭、友人たちと遊んでいる自分、そしてその場に笑顔で立つ祖父の姿。

「これ……どうなってるんだ?」

鏡は、触れた人の最も大切な思い出を映し出していたのだ。

大切に使う日々

鏡の力に気づいてから、その鏡は私にとって特別な存在になった。

試しに友人に触れさせると、彼も「昔、家族と行った旅行の思い出が見えた」と驚いた様子だった。

それからというもの、私はこの鏡をとても大切に扱った。過去の思い出に触れるたび、心が温かくなり、今を生きる力をもらえるような気がしたのだ。

思い出の中の“違和感”

しかし、ある日、不思議なことが起きた。

鏡を触ると、いつものように思い出が映し出されたが、何かが違っていた。

友人たちと笑い合っている小学生の自分の後ろに、見知らぬ女性が立っていたのだ。

その女性は微笑んでこちらを見つめているが、思い出の中には存在しないはずの人だ。

「誰だ……?」

不気味に思いながらも、鏡に映るその女性の目が、どこか優しさに満ちているように感じられた。

突然の別れ

その出来事から数日後、鏡を外に持ち出した際、思わぬトラブルが起きた。

電車で移動中、カバンの中に入れていた鏡が落下し、硬い床にぶつかった音がした。

「嘘だろ……!」

急いで拾い上げると、鏡には大きなひびが入っていた。そして、そのひびが広がるようにして、青い光がふっと消えた。

鏡は、それ以降、ただの普通の鏡になってしまった。

奇跡の残像

不思議な鏡を失った時、私は大きな喪失感を覚えた。

しかし、それ以上に感じたのは、あの鏡が教えてくれた思い出の尊さだった。

鏡を使うたびに蘇った懐かしい記憶や、忘れかけていた温かい感情は、私にとってかけがえのないものだった。

「ありがとう。」

あの鏡が失われた今でも、鏡が映してくれた光景は心に焼き付いている。

最後の謎

一つだけ心に引っかかっているのは、最後に映った見知らぬ女性だ。

「もしかして、あれは未来の思い出だったのかもしれない。」

そんな考えが頭をよぎるたび、心の中に小さな期待と不思議な温かさが広がるのだ。



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