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一度しか行けない“不思議なラーメン屋” 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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突然現れたラーメン屋

それは、残業を終えた深夜のことだった。

空腹を抱えながら帰り道を歩いていると、商店街の外れに見慣れないラーメン屋が現れた。古びた木製の看板には、「幻亭」とだけ書かれている。

「こんな場所にラーメン屋なんてあったっけ?」

店からは湯気と醤油の香りが漂ってきて、胃が反応した。ふらふらと吸い寄せられるように暖簾をくぐると、中にはカウンターだけのシンプルな店内が広がっていた。

「いらっしゃい。」

年配の店主が奥から顔を出した。無表情だが、どこか安心感を覚える雰囲気があった。

メニューは一品だけ

席に座ると、店主がメニューを置いてくれた。しかし、そこにはたった一品だけ。

「特製ラーメン 1000円」

「選択肢がないのか……まあ、いいか。」

空腹に抗えず、それを注文することにした。

しばらくすると、湯気が立つラーメンが目の前に置かれた。透明感のあるスープに程よく火が通ったチャーシュー、輝く麺。見た目はシンプルだが、どこか特別なオーラを放っている。

一口目で広がる記憶

箸で麺をすくい、一口食べた瞬間、私は思わず目を見開いた。

「これ……懐かしい味だ。」

その味は、幼少期に母が作ってくれたラーメンの味だった。具材の配置やスープの風味、どれもがそのままだ。

「なんで……?」

さらにスープを飲むと、頭の中に母との記憶が鮮明に蘇る。忙しい中でも一生懸命作ってくれたあのラーメン。久しぶりに母の声が聞こえた気がした。

他の客たちの様子

ふと周りを見渡すと、他の客たちもラーメンを食べながら涙を流している。

「おばあちゃんの味だ……。」
「これ、亡くなった妻が作ってくれたあのラーメンだ……。」

どうやらこのラーメンは、食べる人の最も懐かしい記憶を呼び起こす“特別な味”を持っているらしい。

店の謎

食べ終わった後、私は店主に尋ねた。

「このラーメン、一体どうやって作ってるんですか?」

店主は静かに微笑むと、こう答えた。

「このラーメンは、人の心に眠る味を映し出すものさ。でも、一度しか食べられない。それがこの店のルールだ。」

一度しか食べられない――その言葉の意味がすぐには飲み込めなかったが、なんとなくその場を後にした。

二度目の訪問

そのラーメンの味が忘れられず、翌週の同じ時間に店を探した。しかし、そこには何もなかった。

商店街の人に尋ねても、「そんな店見たことないよ」と言われるばかりだった。

ラーメンがくれたもの

それ以来、私は幻亭を見かけることはなかった。しかし、あのラーメンが思い出させてくれた記憶は、今でも心に鮮明に刻まれている。

「もう一度あの味を食べたい……いや、それ以上に、母に会いたい。」

あのラーメンは、ただの食事ではなく、大切なものを思い出させてくれる特別な体験だったのだ。



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