目次
そのバス停は突然現れた
仕事帰りの深夜、最寄り駅を降りると、いつも通る道の途中に見慣れないバス停があった。
「こんな場所にバス停なんてあったっけ?」
立て看板には、白地に黒い文字で「深夜特急」とだけ書かれている。周囲には人影もなく、辺りは静まり返っていた。
「タクシーが捕まらないなら、これに乗ればいいか。」
終電を逃し、帰宅手段に困っていた私は、そのバス停に足を止めた。時刻表はないが、風の音に混じってエンジン音が聞こえてくる。
すると、闇夜の中から古びたバスが現れ、私の前で止まった。
不思議な乗客たち
扉が開き、運転手が無言でこちらを見る。その無表情さに少し戸惑ったが、私は乗り込むことにした。
車内は静かで、乗客はちらほらいるものの、全員がうつむいていて表情が見えない。
「終点はどこですか?」
勇気を出して運転手に尋ねたが、返事はない。ただ、前方の電子掲示板に「終点:最果て」と表示されていた。
「最果てってどこだよ……。」
バスは静かに発車し、普段見慣れた街並みを抜けていく。しかし、進むにつれて景色がどんどん変わり始めた。
見覚えのある風景
しばらくすると、車窓に映る景色に奇妙な既視感を覚えた。
「……あれ?」
それは私が子供の頃に住んでいた町の風景だった。閉店したはずの駄菓子屋や、取り壊されたはずの公園がそのままの姿で広がっている。
さらに驚いたのは、窓越しに見えたのは昔の自分だった。小学4年生くらいの私が、ランドセルを背負いながら笑顔で駆けている。
「こんなこと、あり得ない。」
他の乗客の秘密
動揺しながらも他の乗客に目をやると、彼らも窓の外をじっと見つめている。
その視線の先には、それぞれの“過去”の風景が映っているようだった。
年配の女性の目の前には、戦時中らしき町並み。若いサラリーマンの窓には、学生時代の学校が広がっていた。
彼らは無言だが、どこか懐かしさと切なさを感じさせる表情を浮かべている。
バスの終点
バスは進み続け、やがて暗闇に包まれた何もない場所で停車した。
「最果てです。」
運転手がようやく口を開いた。低く響くその声は、不思議と心に染み入るようだった。
乗客たちは一人ずつ静かに降りていく。外に降り立つと、それぞれの風景に吸い込まれるように姿を消していった。
「私は……?」
私が運転手に尋ねると、彼はただ一言だけ答えた。
「ここはあなたの決断次第。」
選択の時
私は降りることなく、車内で考え続けた。このまま降りれば、懐かしい過去の中に戻れるかもしれない。しかし、それは現実の人生を捨てることを意味しているのではないか――。
迷いに迷った末、私は席を立ち、運転手にこう告げた。
「戻ります。」
運転手は頷き、バスの扉を閉めると、再び走り出した。
現実への帰還
気がつくと、私は最寄り駅の近くにいた。時計を見ると、時間は深夜2時。
「夢……だったのか?」
しかし、ポケットの中には、子供の頃に集めていた駄菓子の景品が入っていた。それは夢ではなく、確かに体験した出来事だったのだ。
不思議な教訓
それ以来、あの「深夜特急」を見かけることはなくなった。しかし、あのバスが私に教えてくれたことは忘れられない。
過去に戻ることはできないが、今を大切にすることで未来を変えられる。そんなメッセージをもらった気がする。
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