田中雄介は、倉庫の一角で作業を続けていた。その日も膨大な書類を整理していたが、一つだけ異様な存在感を放つ資料が目に留まった。それは薄い紙の包みで、封筒ではなく直接中身が確認できる状態だった。中を覗くと、一冊の小さな絵本と、それに関する調査資料が収められていた。
絵本は可愛らしい表紙をしているものの、どこか古めかしく、普通の子ども向けの絵本とは少し違う印象を受けた。
目次
資料に記された絵本の来歴
タイトル：『ほしねこのぼうけん』
発行年：昭和20年代後半（正確な年は不明）
著者・イラストレーター：不明
出版社：不明
この絵本は、昭和20年代後半に発行されたと推測されるが、著者や出版社に関する情報は一切残されていない。特定の家庭に代々伝わっていたものとされ、現存するものは非常に少ない。そのため、この絵本に関する情報も極めて限られている。
絵本は一見すると普通の内容に見えるが、所有した人々が「嫌な夢を見るようになった」「本のある部屋で物音がする」といった報告をしており、いわくつきの絵本として扱われている。
絵本の内容
雄介は、絵本を開き、ページをめくり始めた。表紙には、星柄の帽子を被った小さな猫のイラストが描かれていた。色使いも鮮やかで、可愛らしい雰囲気だったが、どこか不気味さを感じるのは気のせいだろうか。
「これを確認しなきゃいけないのか…」
雄介は少しだけため息をつきながら、絵本の内容確認に取り掛かった。
あらすじ（抜粋）
「ほしねこのぼうけん」は、星柄の帽子を被った子猫が、森の中を探検しながら友達を作るお話だ。
子猫は、森の奥でウサギやリス、フクロウなどと出会い、一緒に遊んだり、おしゃべりを楽しんだりする。
物語の最後では、星の光が差し込む草原でみんなで踊るシーンが描かれ、友達と別れた後、子猫は星空を見上げながら満足げに眠りにつく。
「普通の内容だな…」
雄介はそう思いながらも、どこか嫌な感覚が頭をよぎる。ページの隅々まで確認しても、物語の内容は本当に普通で、むしろ温かみのある可愛らしい話だった。絵もどことなく古典的で味わい深く、特におかしな部分は見当たらなかった。
だが、なぜか絵本全体に違和感が漂っていた。猫の瞳が妙に鋭く感じられる瞬間や、森の背景がやけに暗く重たく見える気がして、心がざわつくのだ。
絵本に関する報告
報告書には以下の記述が含まれていた。
所持者の体験談
「この絵本を購入してから、夜中に誰かが耳元で囁くような音を聞くことが増えた。」
「子どもがこの本を読んだ後、部屋の隅をじっと見つめて『猫がいる』と言い出した。」
絵本の経緯
この絵本は、ある古書店で偶然発見されたもので、店主が仕入れた際に「気味が悪い」と感じたため、その後販売されず倉庫に保管されていた。後に、研究目的で回収された。
絵本の内容と心理的影響
絵本の内容そのものは普通だが、読む者に何らかの不安感や異様な感覚を与える。これは絵本に使われている色使いや構図が原因ではないかと考えられているが、明確な結論は出ていない。
田中雄介の感想
雄介は絵本を閉じ、改めて報告書に目を通した。
「内容は普通なのに、なぜこんな気味悪さを感じるんだろう…？」
絵本の絵や物語自体に異常な部分は見当たらなかったが、その微妙な違和感は拭えなかった。特に、絵本の猫の瞳が何度も夢に出てきそうな気がして、雄介は無意識に背筋を正した。
書類の分類と安堵
雄介は、絵本を封筒に戻し、「怪異に関連する書類」のカテゴリに分類した。そして次の資料に手を伸ばした。
次に出てきたのは、デスクライトの使用説明書だった。
平凡な内容に、雄介は思わず苦笑いしながら呟いた。
「やっぱり普通の書類が一番だな…」
彼は心を落ち着けながら、静かに次の書類整理に取り掛かった。
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