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深夜だけ繋がる“公衆電話の不思議な相手” 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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忘れられた公衆電話

私がその公衆電話を見つけたのは、仕事帰りの深夜だった。

普段はタクシーを使う道を、たまたま歩いて帰ることにした夜のこと。人気のない住宅街の外れに、古びた緑色の公衆電話がぽつんと立っていた。

「まだこんな電話が残っているんだ。」

懐かしさを覚えながらも、壊れかけた外観に違和感を覚えた。誰も使っていないはずの電話だが、受話器が微妙に揺れているように見えたのだ。

鳴り響くベル音

その日を境に、毎晩のようにその電話の前を通るようになった。気になったのは、その電話から不定期に響くベル音だった。

「深夜に誰が電話なんて?」

ある夜、意を決して電話に近づいてみると、受話器が不気味に揺れながら鳴り続けていた。勇気を出して受話器を取ると、しばらくの間無音が続いた。しかし、やがて女性の声が聞こえてきた。

「……聞こえますか?」

声の正体

女性の声は穏やかで、どこか懐かしい響きがあった。

「あなたにお願いがあります。この電話が鳴ったら、必ず出てください。どうかお願いします。」

何を頼まれているのかはっきりわからなかったが、声の切迫感に押されて「わかりました」と答えてしまった。

不思議な会話

それから数日間、その公衆電話のベルが鳴るたびに私は受話器を取った。相手はいつも同じ女性で、会話の内容は日常的なものばかりだった。

「今日は空がきれいでしたね。」
「昔、あなたもこの道を通っていましたよね。」

何気ない話が続くうち、女性の言葉に違和感を覚えた。彼女は私が子供の頃にこの道を通ったことや、その時の服装、持ち物まで正確に知っていたのだ。

「……あなた、一体誰なんですか?」

問いかけると、女性は少し間を置いてから答えた。

「私は、あなたが忘れてしまった人です。」

記憶の糸

その言葉を聞いた瞬間、ある記憶が蘇った。幼い頃、この道の近くで優しい女性に道案内をしてもらったことがあった。その女性は、迷子になった私を励ましながら家まで送ってくれたのだ。

しかし、それがどうして今、公衆電話越しに話しているのかはわからない。

最後の通話

ある晩、いつものように公衆電話が鳴り響いた。受話器を取ると、女性の声はこれまで以上に穏やかだった。

「これが最後のお願いです。」

その言葉に胸がざわついた。

「もしもう一度迷子になったら、この電話を思い出してください。」

それが最後の言葉だった。通話が途切れた後、電話は二度と鳴らなくなった。

公衆電話が教えてくれたこと

それ以来、その公衆電話の前を通るたびに胸が締め付けられる思いになる。あの女性は誰だったのか、本当に過去の記憶から来た存在だったのか。

一つだけ確かなことは、彼女が私に何か大切なことを思い出させようとしてくれたのだということだ。



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