怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

お正月だけ訪れる小さな神社 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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私は孤独が好きな人間だ。

天涯孤独の身だが、それを寂しいと思ったことはない。親せきも友人もいないし、誰かと関わる必要も感じない。自宅で本を読んだり、近所を散歩して質素に暮らす、それが私にとっての充実した日々だった。

世の中がお正月で賑わう時も、特別な感情は湧かない。テレビで初詣の映像や福袋を求める人々の行列を見るたび、むしろ静かな日常を過ごせることに感謝するくらいだった。

そんな私にとって、今年のお正月は少しだけ奇妙なものとなった。

いつもと違う散歩道

元日。朝からどこか気分が重い日だった。特に何があったわけではないが、部屋の空気が妙に淀んでいるような感覚がした。

「少し歩いてこよう。」

いつもの散歩道へ向かい、冷たい風に当たることにした。冬の空気は澄んでいて、人気のない住宅街を歩くだけで心が落ち着く。

しかし、その日はなぜか足がいつもの道から外れ、少し奥まった路地へ向かっていた。普段なら避けるような場所だったが、妙に引き寄せられる感覚があった。

突然現れた神社

路地を進むと、目の前に小さな鳥居が現れた。朱色が薄く剥げ、時間の経過を感じさせる古びた鳥居だった。

「こんなところに神社なんてあっただろうか?」

私は長年この街に住んでいるが、この神社を見た記憶がない。少し気になりながらも、足は自然と境内へ進んでいった。

神社はとても小さく、拝殿は古びているが掃除は行き届いていた。参道には落ち葉一つなく、どこか不思議な清潔感が漂っている。

誰もいないはずの境内

私は小銭を賽銭箱に入れ、軽く手を合わせた。願い事をする習慣はないが、形だけの参拝が心地よく感じられた。

その時、背後で微かな足音が聞こえた。振り返ると、一人の老人が立っていた。白い髭に黒い和装姿で、どこか古風な雰囲気を纏っている。

「ここへ来るとは珍しい。」

老人は穏やかな笑顔を浮かべながらそう言った。

「珍しい?」

「この神社に来る人は、正月でも滅多にいないんですよ。」

そう言って老人は静かに去っていった。私は何かを聞き返そうとしたが、彼の背中はすぐに木々の間に消えてしまった。

夢のような風景

その後、境内を歩いていると、不思議なことに気づいた。鳥のさえずりや風の音が、まるで遠のいていくように感じられるのだ。

さらに目を凝らすと、木々の隙間から覗く住宅街の風景が、ゆらゆらと揺らめいているようだった。

「なんだこれは……?」

一歩踏み出すたびに、まるで自分が別の場所に移動しているような感覚に襲われた。気づくと、先ほどの拝殿がはるか遠くに見える。

元の道へ戻る

不安になり、来た道を戻ろうとしたが、気づけば先ほどの鳥居も消えていた。代わりに、足元には見慣れたアスファルトの道が続いている。

私は恐る恐る歩き始めた。何かが私を見守っているような感覚があったが、振り返る気にはなれなかった。

そのまま歩き続けると、ようやくいつもの散歩道に戻ることができた。振り返ると、そこには神社も鳥居も何もなかった。

その後

帰宅してから、私は近所の地図を調べてみたが、その路地に神社があるという記録はどこにもなかった。

「あれは一体……?」

その出来事が何だったのか分からないが、次の元日も、私はあの道を歩いてみようと思っている。そしてまた、あの神社が現れるのかどうか確かめたい気がするのだ。



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