目次
孤独が好きな主人公
私は天涯孤独の身だ。親戚もいないし、友人もいない。けれど、それを寂しいと思ったことはない。
世間では「孤独」という言葉をネガティブに捉えるが、私はその静けさを愛している。派手なお正月の喧騒なんて、自分には関係ない。
今年もいつものように大晦日を淡々と過ごし、質素な食事をして静かに年を越した。
奇妙な出会い
元旦の朝、近所を散歩していると、普段見慣れない露天商がひとつだけ出ていた。
「お正月にこんなところで店を出すなんて、珍しいな。」
気になって近づいてみると、露天にはいろいろな小物が並んでいた。古びたおもちゃや人形、何に使うのかわからないガラス細工。どれも少しだけ不思議な雰囲気をまとっている。
「お兄さん、何か縁起物でもどうですか?」
店番をしていたのは、白髪混じりの笑顔が優しい中年の男性だった。
「いや、こういうのは興味がなくてね。」
断ろうとしたが、その中に一冊の古びた本が目に留まった。
古い本との出会い
その本は、小さな手帳のようなサイズで、表紙に「歳神のしおり」と書かれていた。
「これは?」
「それは不思議な本ですよ。お正月にだけ開ける特別なものです。」
不思議な気持ちに駆られた私は、その本を購入することにした。値段はわずか100円。
「ありがとう。良い一年になりますように。」
店主の笑顔に少し戸惑いながら、家に帰った私は、その本を開いてみることにした。
本の中の文字
本の中には、日記のような形式で何かが書かれていた。だが、その文字は薄くかすれていて、読むことができない。
不思議に思いながらページをめくると、ふいに文字が浮かび上がってきた。
「この一年、あなたに訪れる小さな縁について記録します。」
意味がわからず閉じようとしたが、次のページには、今日の私が散歩して露天商に立ち寄ったことが書かれていた。
「……これは、私の日記?」
驚きとともに、これがただの本ではないことを直感した。
予言される日常
その日以降、私は毎晩その本を開くようになった。本には翌日に起きる出来事が書かれているのだが、それは些細なことばかりだった。
「明日、スーパーで少し高めのリンゴを買う。」
「午後2時に近所の猫があなたの庭を通り過ぎる。」
どれも日常的で、特に重要なことは書かれていない。それでも、その内容がすべて現実になるのが奇妙だった。
本が示す「小さな縁」
ある日、本にはこんなことが書かれていた。
「明日の朝、見知らぬ人と挨拶を交わす。」
私は普段、知らない人と話すことなどほとんどない。孤独が好きな私には珍しい予言だった。
翌朝、家の前を掃除していると、近所に新しく越してきたという中年の女性が声をかけてきた。
「おはようございます。今年もよろしくお願いしますね。」
予言通りだと気づいた私は、思わず微笑んで挨拶を返した。それは、久しぶりに感じた小さな温かさだった。
本の消失
その夜、本を開くと最後のページにこう書かれていた。
「この本はあなたの一年の“縁”を届けるためのものです。役目が終わったので、明日の朝には消えます。」
翌朝、机の上に置いていたはずの本は、跡形もなく消えていた。
迎えた新しい一年
それ以降も私は変わらず一人暮らしを続けている。ただ、本と過ごした短い時間を通じて、孤独な中にも「小さな縁」が存在していることに気づいた。
私の生活に大きな変化はないが、どこか以前よりも軽やかに過ごせている気がする。
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