私は孤独が好きだ。
親せきも友人もいないが、むしろその方が気楽だと思っている。自宅で本を読んだり、庭で植物を育てたり、時々近所を散歩して質素に暮らす生活が何よりも心地よい。
世間から少し離れた小さな家に住んでいるが、特に不自由も感じない。この家での静かな暮らしは、私にとって理想的なものだった。
だが、最近になって一つだけ妙なことが起こり始めた。
目次
「こんにちは」の声
ある日、朝の散歩に出かけると、すれ違いざまに「こんにちは」と声をかけられた。
声の主は見知らぬ男性だった。四十代くらいの穏やかな顔立ちで、グレーの帽子をかぶっていた。私は散歩中に誰かと話すのが得意ではないので、軽く会釈してその場をやり過ごした。
家に帰り、「あの人は誰だろう」と少しだけ気になったが、それ以上考えず本に没頭することにした。
再び現れる男性
翌日、同じ時間に散歩に出かけると、また同じ男性が現れた。私が歩く方向に合わせるようにして、彼も並んで歩き始める。
「良い天気ですね。」
彼はそう言って微笑んだ。私は会釈で応じるだけだったが、彼は特に気にする様子もなく、しばらく並んで歩いていた。
その日から、彼は毎朝私の散歩の途中で姿を見せるようになった。決まって「こんにちは」か「良い天気ですね」と声をかけるだけで、あとは何も言わない。
不思議な会話
ある日、私は意を決して彼に尋ねてみた。
「あなたは、ここら辺の住人ですか?」
すると彼は微笑みながらこう答えた。
「ええ、まあそんなところです。あなたと似たような暮らしをしていますよ。」
それだけ言うと、また黙って歩き出した。質問に答えたようで答えていない、その曖昧な言葉が妙に引っかかった。
気配を感じる日々
それから数日、彼は姿を見せなかった。しかし、その代わり、家の中でも彼の存在を感じるようになった。
庭の花に水をやっている時、ふと窓越しに視線を感じたり、夜中に本を読んでいるとき、背後に誰かが立っているような感覚があった。
ただ、振り返っても誰もいない。
「気のせいだろう」
そう自分に言い聞かせたが、その感覚は日を追うごとに強くなっていった。
再会
ある日、散歩中に再び彼と出会った。
「お久しぶりですね。」
彼はいつもの穏やかな笑顔を浮かべていた。
「最近、家の中で誰かの気配を感じることがあるんです。」
思わずそう打ち明けると、彼は微笑みを浮かべたままこう言った。
「それは良かったですね。孤独ではなくなったんじゃないですか?」
彼の言葉は一見無害に思えたが、妙に胸に引っかかるものがあった。
消えた男性
その日を最後に、彼を見かけることはなくなった。
散歩中にどれだけ探しても、彼の姿は見当たらない。近所の人に尋ねても、「そんな人は見たことがない」と首を傾げられるばかりだった。
家の中で感じていた気配も、いつの間にか消えてしまっていた。
残された痕跡
ただ一つだけ、気になることがあった。庭に咲いている花の中に、私が育てた覚えのない小さな白い花が咲いていた。
その花を見た時、なぜか彼の笑顔が脳裏に浮かんだ。
「彼は何者だったのだろう?」
その答えを知る術はない。ただ、彼が言った「孤独ではなくなった」という言葉の意味を考えるたび、少しだけ胸がざわつくのだった。
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