副業でクラウドソーシングを始めて半年になる。ライティングやデータ入力など、地道な作業が中心だったが、それなりに収入を得られていた。そんな中、ある日、私の目に止まった一つの奇妙な依頼があった。
「【体験記求む】異世界の探訪者になりませんか?詳しい手順は契約後にお伝えします。報酬:10万円」
普通ならスルーするような内容だ。しかし、その報酬額の高さと不思議な雰囲気に、なぜか強く惹かれた私は、興味本位でその依頼を受けることにした。
契約成立後、クライアントから送られてきたのは、一通の簡潔なメッセージだった。
「指定の日時にあなたの自宅近くの公園にある時計塔の前で待機してください。それ以上の準備は不要です。」
半信半疑だったが、私はその言葉通り、指定された日の深夜12時に、自宅近くの小さな公園へ向かった。時計塔は普段から何気なく見ているありふれたものだったが、その夜は妙に威圧感があるように感じられた。
目次
異世界への扉が開く
時計塔の前で立ち尽くしていると、夜風が肌を撫でる中、周囲の雰囲気が変わり始めた。時計塔の針が12時を指すと同時に、周囲が薄暗い霧に包まれたのだ。時計塔の鐘の音が一度鳴り響いた瞬間、視界がぐにゃりと歪み、目の前の風景が完全に変わった。
気づくと、私は見たこともない街に立っていた。空は不気味な灰色をしており、昼でも夜でもないような薄暗い光が辺りを包んでいる。建物は歪んでいて、まるで溶けかけた粘土細工のような形状だった。道にはところどころにひび割れがあり、奇妙な植物が生い茂っている。
「ここ…どこだ…?」
戸惑いながら歩き始めると、遠くに人影が見えた。喜びと安心感でその人影に近づこうとすると、徐々に違和感が募り始めた。
偽りの人間との出会い
彼らは、一見すると普通の人間のようだった。だが、近づくにつれて、表情に何かがおかしいことに気づいた。
全員がぎこちない笑顔を浮かべていたのだ。目は焦点が定まらず、まるでガラス玉のように冷たい光を放っている。そしてその笑顔――人間が笑顔を真似しようとして失敗したような、作り物めいた不自然さがあった。
「……すみません、ここはどこですか?」
私は思い切って声をかけた。しかし、返ってきたのは意味のない音の羅列だった。
「ァァ……オォ……カァ……」
彼らの口元は動いているが、それは言葉ではなかった。まるで人間の会話を模倣しようとして、何かが決定的に間違っている――そんな印象を受けた。
「な、なんだこれ…?」
全身に鳥肌が立ち、後ずさった。その瞬間、彼らが一斉にこちらを向き、焦点の合わない目で私を見つめた。口元には引きつった笑顔が貼りついたままだ。
「ここは…おかしい…早く戻らなきゃ…!」
異世界からの帰還
恐怖に駆られ、足早にその場を離れようとした時、制服を着た警察官のような、しかし警備員にも見える男性が立っていた。彼の表情だけは穏やかで、どこか安心感を与えるものだった。
彼は私をじっと見つめ、
「君は、仕事を受けてくれた人か。もう十分だよ。」
その声は優しかったが、同時にどこか強い力を帯びていた。その言葉を聞いた瞬間、周囲がふっと暗転し、意識が遠のいていった。
「…ん?」
目が覚めると、そこは自分の部屋だった。窓の外から差し込む朝日が、眩しくて目を細める。時計を見ると、深夜12時を少し過ぎたところ。
「夢…だったのか?」
現実感がなく、頭の中は昨日の出来事でいっぱいだ。あの奇妙な世界、不気味な人々、そして最後の言葉。
「もう、ここには来ちゃダメだよ。」
一体、あの男は何者だったのだろう? あの言葉の意味は何なのか?
窓の外の風景を見つめながら、私は再び、あの異世界の記憶に引き込まれていく。
後日、クラウドソーシングのサイトを開き、体験記を記し提出をした。
しばらくして、しっかりと報酬が振り込まれた。
報酬を見て、やはりあの世界は実在するのだろうかと考えを巡らせる。
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