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暗夜の礫――深夜に投げられる石の謎 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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私は昔から田舎の山村で育った。自然に囲まれたその場所は空気が澄んでおり、昼間は静かで穏やかだ。しかし、夜になるとその村には不気味な噂があった。それは、「暗夜の礫」と呼ばれる奇妙な現象だ。

暗夜の礫とは?

「暗夜の礫」とは、深夜になるとどこからともなく石が飛んでくるというものだ。石は家の屋根や壁に当たり、カンッ、カンッという音を響かせる。しかし、石を投げた人間の姿は決して見つからない。

祖母が言うには、「あれはこの村に昔からいる“何か”の仕業だよ」とのことだった。

「暗夜の礫は、村に迷い込んだよそ者や、不届き者に警告するためのもの。だから、決して夜中に外をうろついたり、音のする方を探しに行ったりしてはいけないよ。」

祖母の言葉は冗談めいていたが、どこか真剣さを帯びていた。そのため私は子供の頃から、夜遅くに外を出歩くことはしなかった。

高校生の夏休み

しかし、高校生になった私は、祖母の言葉を半ば忘れていた。ある夏の夜、友人たちと遅くまで語り合った帰り道、その奇妙な現象を体験することになったのだ。

夜の10時を過ぎた頃、静まり返った村の道を一人で歩いていた。月明かりだけが頼りの暗い道を進んでいると、突然――

カンッ!

後ろから石が飛んできて、私のすぐ横の電柱に当たった。

「えっ……?」

驚いて振り返るが、誰もいない。辺りには木々がざわめく音だけが聞こえる。

「誰だよ!」

声を張り上げても返事はない。ただ、足元に転がる拳ほどの大きさの石が、月明かりにぼんやりと照らされていた。

止まらない石の音

再び歩き出すと、またもやカンッ!という音が背後から響いた。今度は私の右肩をかすめて地面に落ちた。

「やめろよ!」

恐怖と怒りが入り混じりながらも、石を投げた犯人を探そうと周囲を見回した。しかし、そこには誰の姿もなかった。

その瞬間、足元に冷たい感覚が走った。何かが近くにいる――そう直感した私は、逃げるように家まで走った。

祖母の警告

家に帰りつくと、玄関で出迎えた祖母が私の顔を見るなり言った。

「まさか、外で石の音を聞いてたんじゃないだろうね?」

私は震えながら頷いた。すると、祖母の顔が一瞬だけ険しくなり、すぐにこう言った。

「今夜は外を見るんじゃない。絶対に窓も開けちゃいけないよ。」

その真剣な表情に、私はそれ以上何も聞けなかった。ただ、自分の部屋に戻り、布団に潜り込んだ。

深夜の異変

深夜1時過ぎ、私は異変に気づいて目を覚ました。家の外から、カンッ、カンッという音が響いている。

石が屋根や壁に当たる音だ。しかし、それだけではなかった。

微かに聞こえる足音――それも一人や二人ではない。複数の足音が家の周りをゆっくりと歩き回っているのだ。

「誰かがいる……」

息を殺しながら布団の中で耳を澄ませていると、窓ガラスを軽く叩く音が聞こえた。

コツン……コツン……

「開けて。」

小さな声で誰かが囁いている。しかし、それは友人や家族の声ではなかった。

低く、冷たい声だった。

朝になって

気づけば朝になっていた。外は静かで、昨夜の出来事がまるで嘘のように思えた。

恐る恐る家の外に出てみると、屋根瓦や地面には無数の小石が散らばっていた。それはまさに、「暗夜の礫」がここに訪れた証拠だった。

祖母はそれを見て言った。

「警告されたんだよ。二度と夜中に外を出歩くんじゃない。」

その後の謎

それ以来、私は夜遅くに出歩くことをやめた。そして、「暗夜の礫」について祖母に詳しく聞こうとしたが、彼女はそれ以上話そうとはしなかった。

あの石を投げてきたのは一体誰だったのか? それとも人間ではなかったのか?

真相は分からない。ただ一つ言えるのは、あの夜以来、村の夜道がどれだけ静かでも、耳元にはカンッという音が鳴り響くような気がしてならないということだ。



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