目次
【プロローグ】
不動産業に携わる私にとって、空き物件の下見は日常茶飯事だ。
築年数が経った物件や、長らく空き家になっている場所は独特の空気を纏っているが、仕事柄慣れてしまい、特に気にすることはない。
その日も、管理会社から新たに空き物件が出たと連絡を受け、いつものように現地確認に向かった。築40年以上の古いアパートで、数年間空き室になっていたという。その日は午後遅く、日が沈みかけた頃だった。
しかし、その部屋で体験した出来事は、私の中で「日常」とは程遠いものだった――。
【古びた物件】
アパートに到着すると、外観は想像以上に古びており、壁の塗装は剥がれ、廊下の床材も所々傷んでいた。
「これじゃあ、借り手はそう簡単に見つからないな…」
内心そんなことを思いながら、指定された部屋の扉を開けた。
部屋の中は意外にもきれいに保たれていたが、空気はひどく淀んでいた。窓を開けて換気しようとしたが、古いサッシが錆びついており、動かすたびに軋む音が耳に残った。
ギギギ…
「やれやれ、これも修理が必要か。」
仕事柄、古い物件の劣化には慣れているため、特に気にも留めず、部屋の中をチェックしていった。
【最初の軋む音】
部屋の中を歩き回るうちに、廊下の奥にあるクローゼットに目が留まった。
「この収納スペースは問題ないかな?」
クローゼットの扉を開けようと手をかけた瞬間――
ギシ…ギシ…
何かが奥で動くような音がした。
「ん?なんだ?」
クローゼットをそうっと開けて中を確認したが、中は空っぽだった。妙な胸騒ぎを覚えつつも、仕事を進めることにした。
【夜に響く軋む音】
室内のチェックを終え、帰り際に最後の確認をしていると、再びあの音が聞こえた。
ギシ…ギシ…ギシ…
今度は、クローゼットの中からではなく、部屋の天井からだ。
「古い建物だからな…天井裏でネズミでも走り回ってるのかもしれない。」
そう自分に言い聞かせて音を無視し、仕事を終えようとしたが、音は次第に大きくなり、頻度も増していった。
ギシギシ…ギシギシ…ギシギシ…
音は天井から床、そして壁へと移動しているようだった。
【不気味な足音】
部屋を出ようとした時、音が完全に止んだ。
「やっと静かになったか…」
そう思い、鍵をかけようとしたその瞬間――
ギシ…ギシ…ギシ…
今度ははっきりと「足音」が聞こえた。しかも、その音は私のすぐ後ろ、廊下から聞こえてくる。
振り返ったが、そこには誰もいない。ただ、廊下の奥の薄暗がりが妙に深く見えた。
【異変の正体】
そのまま帰るのも気味が悪いと思い、廊下の奥まで歩いて確認することにした。
廊下を進むたびに足元が軋む音を立て、暗闇の中で耳にまとわりつくようだった。
「やっぱり、ただの建物の老朽化か…」
そう呟いた瞬間、背後から不意に「軋む音」が再び響いた。
ギシ…ギシ…ギシ…
明らかに私の真後ろで音がしている。恐る恐る振り返ると、そこには誰もいなかった。
だが――床のほこりの上には、裸足の足跡がはっきりと残されていた。
【逃げるようにその場を去る】
怖くなった私は、確認作業を投げ出し、慌てて建物を出た。
外に出ると冷たい風が吹き付け、胸のざわつきが少しだけ収まった。
だが、車に乗り込もうとした時、ふとアパートの2階を見上げると、私が下見していた部屋の窓に人影が立っているのが見えた。
それは、長い髪の女性のように見えたが、その顔は暗闇に沈んで分からない。
【エピローグ】
翌日、私は大家に「修繕が必要な箇所」を伝え、ついでに前の住人について尋ねた。
大家は少し顔を曇らせ、こう答えた。
「そこ、しばらく空き部屋なんですよ。前に住んでいた方が…ちょっといわくがあってね。」
詳しくは語られなかったが、それ以来、その物件を訪れることはなかった。
あの日聞いた軋む音――あれは建物の劣化のせいではなかったのだろう。
もし古い物件を訪れる際、聞こえるはずのない音を聞いたら――それは、何かがあなたを見ている合図かもしれない。
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