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取り柄のある男が語った「恐怖の夜」 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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プロローグ

人にはそれぞれ「取り柄」というものがある。

絵が上手い、足が速い、人を笑わせるのが得意――どんな小さなことでも、それがその人の個性を形作るものだ。

私の友人、佐藤は自他ともに認める「話し上手」だった。彼はどんな場面でも空気を和らげ、周囲の人を笑顔にさせることができる、いわゆるムードメーカーだった。

しかし、そんな佐藤がある日、「俺が話し上手になった理由」をぽつりと語り出した。その話は、奇妙で不気味な内容だった――。

第一章:佐藤の「取り柄」

佐藤が人前で話すのが得意だと気づいたのは、小学生の頃だったらしい。

クラスで発表する際、彼の話にみんなが笑ったり感心したりして、自然と注目が集まるようになったのだ。

「でもさ、本当は昔は全然違ったんだよ。」

ある日、居酒屋で飲んでいたとき、佐藤がそんなことを言い出した。

「実は、俺が話し上手になったのは……『あの夜』がきっかけなんだ。」

普段は明るい彼が、その時だけ妙に真剣な顔をしていたのを、今でも覚えている。

第二章:忘れられない夜

佐藤が中学生の頃、彼はどちらかというと無口で、どもりがちだったという。

人前で話すのが苦手で、クラスメイトからからかわれることも多かったそうだ。

「だから、ずっと『自分には何の取り柄もない』って思ってたんだよ。」

そんな彼が転機を迎えたのは、中学2年の夏休みのある夜だった。

「その日は、家族は出かけてて、俺は家で一人だったんだ。」

第三章:謎の訪問者

夜の10時頃、佐藤が部屋でテレビを見ていると、突然玄関のチャイムが鳴った。

「こんな時間に誰だろう?」

不審に思いながらも玄関に出ると、そこには見知らぬ男性が立っていた。

年齢は30代後半くらいで、スーツ姿に少しぼさぼさの髪。

「君、話すのが苦手だろう?」

いきなりそう言われ、佐藤は驚いた。

「俺のこと知ってるんですか?」

男性はニヤリと笑い、「君を助ける方法を知っている」と言った。

第四章:奇妙な提案

「助ける方法って……?」

佐藤が尋ねると、男性はカバンから黒いノートを取り出した。

そのノートにはびっしりと名前が書かれており、その横には「数字」が並んでいた。

「君が話し上手になるために必要なのは、ほんの少しの『知恵』だよ。」

男性は不気味な笑みを浮かべながら、ノートを佐藤に差し出した。

「このノートに名前を書けば、君はどんな人でも魅了できる話し手になれる。」

第五章:試してみた結果

半信半疑ながらも、佐藤はノートに自分の名前を書いた。

すると、男性は満足そうにうなずき、「明日から君の人生は変わるだろう」と言い残して去っていった。

翌日、学校で友人と話していると、自分の口から自然に面白い話や気の利いた言葉が出てくるのに気づいた。

「……これ、本当に効いてるのか?」

それからというもの、佐藤はクラスの中心人物になり、いつの間にか「話し上手」が彼の取り柄になっていった。

第六章:代償なき取引

「で、その話、怖いのはここからなんだよ。」

佐藤は酒を飲み干し、真剣な顔で言った。

「そのノートに書いた名前、消えるんだ。」

「消える?」

「最初は俺の名前が書いてあったのに、いつの間にか別の名前になってるんだよ。」

佐藤はそう言いながら、自分でも信じられないという表情をしていた。

「しかも、その名前の人たちってさ、ある日突然、誰にも気づかれなくなるんだよ。」

第七章:失われた存在

佐藤の話によると、ノートの名前が変わった人たちは、誰にも覚えられなくなるという。

家族や友人すらもその存在を忘れてしまい、その人がいたという記録すら残らないのだとか。

「だからさ、俺は絶対にそのノートに触らないようにしてる。もう怖くてたまらないんだよ。」

佐藤の顔には明らかな恐怖が浮かんでいた。

結末

それ以来、佐藤はその話を二度としなかった。

彼の「話し上手」という取り柄は今でも変わらないが、時折ふとした瞬間に彼が怯えるような表情を見せることがある。

あのノートとあの訪問者――それが何だったのかは、今も謎のままだ。

ただ、彼の話を聞いた後、私も自分の「取り柄」が何なのか考えるたびに、少しだけ不安な気持ちになることがある。

あなたの「取り柄」は、どこから来たものだろうか――?



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