目次
【プロローグ】
「お前には取り柄がないよな。」
幼い頃から何度も言われ続けた言葉だ。学校の成績も普通、運動も普通、特技と言えるものもなく、目立たない生徒だった。
社会人になってからも状況は変わらず、平凡な日々を淡々と過ごしていた。夢もなく、やりたいこともなく、ただ生きるだけの日々。
そんな私が、ある日、人生で初めて「取り柄」と呼べるものを見つけた。だが、それは奇妙で不気味な出来事の始まりでもあった――。
【ある日突然の才能】
きっかけは、会社での些細な出来事だった。
ある日、会議でプレゼン資料を作る仕事を任された。これまで特に目立った仕事をしてこなかった私は、不安を抱えながら資料を作成した。
しかし、そのプレゼンが思いのほか好評だったのだ。
「すごいじゃないか!こんな資料を作れるなんて、君にそんな才能があったなんて驚きだよ。」
上司や同僚から褒められたのは人生で初めてだった。自分にも「取り柄」があるのかもしれない。そう思うと、今まで感じたことのない充実感が湧き上がってきた。
【奇妙な影の訪れ】
その夜、私はいつものように自宅でくつろいでいた。
突然、部屋の電気が一瞬だけチカチカと明滅した。特に気にもせずテレビを見ていたが、ふと窓の外に目を向けると、妙な影が見えた。
それは人の形をしていたが、輪郭がぼやけていて、まるで黒い霧の塊のようだった。
「誰だ…?」
そう呟きながら窓に近づいた瞬間、影はふっと消えた。
「気のせいか…」
そう思い直して布団に入ったが、その夜は妙な胸騒ぎで眠れなかった。
【才能の消失】
翌日、会社で新たなプレゼン資料を作成することになった。前回の成功に気を良くしていた私は、再び同じように取り組んだ。
だが、いざ会議で発表すると、上司の反応は冷ややかだった。
「前回の出来はどうしたんだ?これはひどいぞ。」
確かに、自分で見返しても納得できない内容だった。前回のようなひらめきがまったく浮かばないのだ。
「どうしてだ…?」
不思議に思いながら帰宅した私は、ふと鏡に映る自分の姿に違和感を覚えた。
顔色が悪く、目の下にはクマができている。しかも、どこか覇気がなく、まるで生命力を吸い取られたような感じがした。
【再び現れる影】
その夜、再び部屋の電気が明滅した。そして、窓の外にあの影が再び現れた。
「お前は誰だ?」
声を張り上げても、影は何も答えない。ただ、じっとこちらを見ているように感じた。
その瞬間、頭の中に直接声が響いてきた。
「取り柄を見つけたのだな。」
ぞっとするような低い声だった。私は声を振り払うように窓を閉め、カーテンを引いた。しかし、頭の中の声は続く。
「それはお前のものではない。いずれ返してもらう。」
【取り柄の代償】
その日以降、私は何をやっても上手くいかなくなった。
以前は何の苦労もなくできていた日常的な作業すら失敗ばかり。さらに、同僚からの評価も次第に冷たくなり、孤立していった。
そして、夜になると必ずあの影が現れるようになった。
ある夜、ついに影が部屋の中に入り込んできた。黒い霧がゆっくりと形を成し、目の前に立ちはだかった。
「お前は何なんだ!」
私は叫んだが、影は静かに言った。
「私は取り柄を奪う者。」
【すべてを失った後】
影は私に近づくと、冷たい手のようなものを伸ばし、胸に触れた。
その瞬間、体中の力が抜け落ちるような感覚に襲われた。そして気を失う直前、影がこう呟くのを聞いた。
「お前に取り柄は不要だ。」
目が覚めた時、私は何も感じなくなっていた。喜びも悲しみもない。ただ、生きる意味を見失ったような虚無感だけが残った。
【エピローグ】
それ以来、私はすっかり無気力になり、仕事も辞めた。
あの影が何だったのか、そして私から何を奪ったのか――それは今でも分からない。ただ一つ言えるのは、「取り柄」を見つけた瞬間、すべてが崩れ始めたということだ。
もし、何か特別な才能を手に入れたと感じた時――それが本当に自分のものかどうか、一度考えたほうがいい。取り柄を奪いに来る何かが、あなたを見ているかもしれない。
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