怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

焼き鳥屋で語られた一生忘れられない怖い話 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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先日、大学時代からの友人であるタカシと久しぶりに会うことになり、地元の小さな焼き鳥屋で飲むことになった。店内はこぢんまりとしており、焼き鳥の香ばしい匂いが漂っている。ビール片手に懐かしい話に花を咲かせていたのだが、ふとした会話の流れで、タカシがこう切り出した。

「そういえば、俺、あれ話したことあったっけ?」

「何?」

「……昔、マジで怖い体験をしたんだよ。」

私は興味半分で「聞かせてよ」と促した。しかし、その話が、私の人生において一生忘れられない怖い記憶になるとは、この時はまだ思いもしなかった。

タカシが語る“引っ越しの夜”

タカシが大学を卒業した後、初めて一人暮らしをした時の話だという。新居は駅から少し離れたアパートの一室。築年数は少し古かったが、家賃が安くて広さもちょうど良かったため、迷わず決めたらしい。

「最初は特に何も変なことはなかったんだ。でも、引っ越して2週間くらい経った頃から、夜になると妙なことが起き始めたんだよ。」

妙なこと――その一つ目は、夜中に壁を叩く音だった。

タカシは深夜に帰宅することが多かったが、深夜1時を過ぎる頃になると、壁の向こうからコンコンと一定のリズムで叩く音が聞こえるようになったという。

「最初は隣の住人が何かやってるんだと思った。でも、その時間帯になると必ず鳴り始めるんだよな……」

音はだんだんエスカレートしていき、次第にタカシの部屋の中から聞こえるようになったという。

謎のノート

ある夜、壁を叩く音がピークに達し、眠れなくなったタカシは部屋中を調べることにした。クローゼットや棚、押し入れの隅々まで調べた結果、押し入れの天井裏に隠された一冊の古いノートを見つけたという。

「そのノートさ、最初のページに『この部屋に来た人へ』って書いてあったんだよ。」

ノートには、過去にその部屋に住んでいたらしい人物の書き込みがびっしりと記されていた。

内容は日記のようなものだったが、後半になるにつれて文章が乱れ、意味の分からない言葉が繰り返されていた。

「壁を叩いているのは誰?」
「ここから出られない」
「助けて」

そうした不気味な言葉が並んでいた。

鏡に映る“何か”

タカシがノートを読んだその夜、彼は再び壁を叩く音に悩まされた。しかし、その日は音だけでは済まなかったという。

「その音が聞こえる方を見ると、鏡があったんだ。」

部屋の端に置いてあった全身鏡。その鏡に目をやると――

「鏡の中の自分の後ろに誰かが立ってたんだよ」

タカシは一瞬目を疑った。振り返ると部屋には誰もいない。だが、再び鏡を見ると、明らかにそこに“誰か”がいるのだ。

「その時、何が起きてるのか分からなくなって……俺、気を失っちゃったみたいでさ。」

翌朝、気がついた時には、部屋の中にその“誰か”の気配はなくなっていたという。

霊媒師の言葉

怖くなったタカシは、その日すぐに引っ越しを決意。しかし、ノートのことがどうしても気になり、地元の霊媒師に相談したそうだ。

霊媒師はノートを一目見るなりこう言った。

「この部屋には“残りたい”と思っている存在がいる。」

ノートを書いたのは、どうやら過去にその部屋で亡くなった住人らしい。そして、その霊は誰かが新しく部屋に来るたびに、自分の存在を知らせようとしているというのだ。

「俺があのノートを見つけたのも、多分その霊が『ここに気づいてくれ』って言ってたからなんだと思う。」

焼き鳥屋に戻る現実

タカシがその話を語り終える頃には、私の体は冷たく固まっていた。

「いや、マジで怖すぎるだろ、それ……」

「だろ? でも、それ以来俺、そういう体験はしてないし、霊媒師のおかげで何とかなったのかもしれないな。」

彼はそう言って笑ったが、私は焼き鳥屋の雰囲気や人のざわめきすら気にならなくなるほど、その話に囚われていた。

後日談

タカシと別れた後、私も気味が悪くなり、家に帰る途中でふと気づいた。

自分の部屋にも押し入れがあり、その天井裏には空間がある。帰宅後、私はタカシの話が頭を離れず、押し入れを確認しようとしたが――

どうしてもその扉を開ける勇気が出なかった。

もしかすると、あのノートのようなものが自分の部屋にも隠されているのではないか。そんな考えがどうしても頭を離れないのだ。

最後に……

もしあなたが新しい部屋に引っ越すことがあったら、ぜひ注意してほしい。特に、壁の音や鏡の中の異変には。もしかすると、それはあなたに何かを知らせようとしている“誰か”の仕業かもしれない――。



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