私は小学生の頃から空を見るのが好きだった。特に、青空に浮かぶ雲をぼんやり眺めるのが日課のようになっていた。雲は形を変えながら流れ、時には動物に見えたり、時には大陸のように見えたりする。その自由な姿に惹かれていたのだ。
しかし、あの日、私はそれまでの「ただの雲」に対するイメージを一変させる、奇妙で不思議な体験をすることになった。
目次
夏休みのある日
それは、小学校6年生の夏休みのある日のことだった。昼下がり、私は近所の小さな丘の上で空を眺めていた。風が心地よく、セミの鳴き声が響く中、頭上には無数の雲がゆっくりと流れていた。
その日は特に空が美しく、雲も白くふわふわと輝いていた。私は草の上に寝転び、何気なく空を眺めていると、ひときわ大きな雲に目が留まった。まるで巨大な門のように、左右に大きな柱を持つ形をしていた。
「なんだろう、あの形……」
妙に気になる雲だった。門の真ん中には奥行きがあるように見え、まるでその先に何かがあるような感覚を覚えた。私はぼんやりと、その雲に見入っていた。
雲の中の“光”
しばらくその雲を眺めていると、突然その「門」の奥がほんのり光り始めた。最初は夕陽の反射だと思ったが、次第にその光が強くなり、金色に輝いていることに気づいた。
「なんだ、これ……?」
目を細めながらその光を見ていると、ふとその光の中に何か動いているものが見えた。それは人影のようにも、何かの生き物のようにも見えたが、形を特定することはできなかった。ただ、それが「こちらを見ている」という感覚だけは、はっきりと感じ取れた。
友人の登場
私がその奇妙な光景に見入っていると、突然後ろから「何してるんだ?」という声がした。振り返ると、同じクラスのユウタが自転車を押しながらこちらに近づいてきた。
「空を見てたんだよ。ほら、あの雲、変じゃない?」
ユウタも空を見上げると、「おお、確かにすごい形だな」と言ったが、私ほど興味はなさそうだった。
「光ってるように見えるんだけど、見えない?」
私がそう尋ねると、ユウタは首を傾げた。「どこが光ってるんだよ?普通の雲にしか見えないけど。」
その言葉に、私は少し混乱した。確かに、あの雲は明らかに光り、何かが動いているのを私は見ている。それなのに、ユウタにはただの雲にしか見えないというのだ。
奇妙な風と音
その時だった。突然、丘の上に不思議な風が吹き始めた。周囲の草木は揺れず、私たちの周りだけに小さな渦が巻いているような感覚だった。そして、風に混じってどこか遠くから微かな音が聞こえてきた。
それは、人の話し声のようだった。最初は何を言っているのか分からなかったが、耳を澄ませると次第に言葉が聞き取れるようになった。
「来るのか……来ないのか……」
「今の聞こえた?」
私はユウタに尋ねたが、彼は不思議そうな顔で首を振った。「何も聞こえないけど……お前、大丈夫か?」
ユウタの言葉が遠く感じるほど、私はその音に引き込まれていた。声は次第に明瞭になり、繰り返しこう言っていた。
「門が開く……来るのか……」
“門”の向こうに見えた世界
その瞬間、雲の「門」の奥に広がる光景がはっきりと見えた。それは見たことのない広大な平原で、青々とした草原がどこまでも続いていた。草原の上には色とりどりの鳥のような生き物が飛び交い、遠くには大きな建物のようなものが見えた。
「あっちの世界……?」
私はまるで吸い込まれるような感覚を覚え、無意識のうちに手を伸ばしていた。足元がふわりと浮くような気がし、「このまま行けるかもしれない」と思った瞬間――
「おい、どうしたんだよ!」
ユウタの声が私を現実に引き戻した。その瞬間、視界から「門」は消え、ただの雲が空に浮かんでいるだけだった。
帰り道の不思議な空
「お前、ちょっとおかしいぞ。熱でもあるんじゃないか?」
ユウタの言葉に、私は曖昧に頷きながら丘を降りた。頭の中では、あの光景と声がぐるぐると回っていた。あの「門」の向こうは本当にどこかに続いていたのか?それともただの幻覚だったのか?
その後、家に帰っても空を見上げるたび、あの雲を探したが、二度と同じ形の雲を見ることはなかった。
あの日の記憶
今でも、私はあの雲のことを思い出すたびに不思議な気持ちになる。あの「門」の向こうに広がっていた世界は、私の想像だったのか、それとも本当に別の世界への入り口だったのか――。
もしあなたが空を見上げた時、普段とは違う何かを感じたら、それはきっと何かが「こちらを見ている」証拠なのかもしれない。
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