ある日、大学時代の友人であるタケシから、突然電話がかかってきた。彼とはしばらく会っていなかったが、学生時代にはよく飲みに行ったり、一緒にゲームをしたりしていた仲だ。
「悪いんだけど、ちょっとお願いしたいことがあるんだ。」
久しぶりの連絡なのに、声はどこか沈んでいた。
「どうした？ 急に。」
「実はさ……日本人形を一時的に預かってほしいんだよ。」
「日本人形？」
予想外の内容に戸惑ったが、タケシは理由を詳しく話そうとしなかった。ただ、「どうしても自分の家に置いておきたくない」と繰り返すだけだった。
目次
預かった人形
数日後、タケシがやってきた。彼が持ってきたのは、木製の箱に入った古い日本人形だった。髪は真っ黒で肩まで垂れ、小さな着物を着た人形は、どことなく悲しげな表情をしている。
「これ、誰かにもらったのか？」
私が尋ねると、タケシは曖昧に頷いた。
「祖母の家から出てきたんだよ。でも、これが妙なことを起こす気がしてさ。」
「妙なことって？」
「いや……なんていうか、夜中に動いた気がしたり、視線を感じたり……。」
タケシの表情は真剣だったが、私は半信半疑だった。
「まあ、置いとくよ。期間はどれくらいだ？」
「一週間くらいでいい。」
そう言って、彼は何度も頭を下げて帰っていった。
奇妙な気配
その夜、私は人形を部屋の隅に置き、そのまま普段通りの生活を送るつもりだった。
しかし、寝室に入って布団に横たわると、ふとリビングからの気配が気になり始めた。まるで、誰かがそこに立っているような感覚だ。
「気のせいだよな……。」
自分にそう言い聞かせ、目を閉じたが、なぜか妙な胸騒ぎが収まらない。
リビングを確認するために起き上がると、暗い部屋の中で、日本人形が月明かりを浴びてぼんやりと浮かび上がっていた。その視線はどこか私を見つめているように思えた。
「……ただの人形だろ。」
そう言い聞かせて寝室に戻ったが、その夜はなかなか眠れなかった。
さらに増す異変
翌日、仕事を終えて帰宅すると、妙なことに気づいた。日本人形の位置が、昨夜と微妙に変わっているのだ。
「気のせいか……？」
しかし、昨日は確かに部屋の隅に置いておいたはず。それが、少しだけ前に動いていた。
さらに夜になると、部屋の中がどことなく冷たく感じられ、静けさが異様に重く感じられるようになった。
私はだんだんと不安になり、タケシに電話をかけた。
友人の告白
「おい、タケシ、これマジで何なんだよ？ あの人形、動いてる気がするんだけど。」
タケシはしばらく沈黙した後、重い口調で話し始めた。
「……悪い、本当はもっと早く話すべきだったかもな。」
彼によると、その人形はタケシの祖母の家の押し入れから見つかったものだったらしい。長年しまわれていたにもかかわらず、人形は埃一つかぶっておらず、まるで最近まで誰かが手入れしていたかのように綺麗だったという。
「それを家に持ち帰った途端、夜中に変な音がしたり、急に視線を感じたりするようになったんだ。しまいには、俺が寝てる間に人形が動いてる夢を見てさ。」
「じゃあなんでそれを俺に預けたんだよ！」
「ごめん。でも、どうしても家に置いておけなかったんだ……。」
最後の夜
その日の夜、私は人形を直視するのが怖くなり、箱にしまって押し入れに入れることにした。
しかし深夜、突然、何かが落ちるような音で目が覚めた。
恐る恐るリビングに行くと、押し入れの扉が少しだけ開いていた。そして、その前には箱に入れたはずの日本人形が立っていた。
動いた覚えはない。誰も部屋にいるはずがないのに。
その瞬間、全身に鳥肌が立ち、私はその人形に近づくことすらできなかった。
その後
翌日、タケシに再び連絡を取り、彼に人形を返した。
「もうこれ以上、無理だ……。」
タケシも申し訳なさそうに謝り、その人形をどうするのか聞いてみると、「寺に持って行く」と言っていた。その後、彼がどうしたのか詳しくは知らないが、人形が私の家からなくなってから、不思議な気配や現象はすっかり収まった。
いまだに残る記憶
あの日本人形が何だったのかは、結局分からない。ただ、タケシが言っていたように、人形には何かしらの「意志」が宿っていたのではないかと感じる。
もし、あなたの元に「預かってほしい」と日本人形が届けられることがあれば、どうか慎重に考えてほしい。そこには、何か見えない“何か”が潜んでいるかもしれない――。
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