目次
【プロローグ】
大学入学を機に、私は一人暮らしを始めた。
新しい生活に慣れるまで少し時間がかかったが、平日の通学路で見かける何気ない風景が、生活に一種のリズムを与えてくれていた。
その中で特に目に留まるのが、赤ちゃんを乗せたベビーカーを押す若い母親だった。最寄り駅までの道を歩いていると、ほぼ毎朝のようにすれ違う。初めは「近所の人なんだろうな」と気にも留めなかったが、ある日を境に、私はその親子が放つ妙な雰囲気に気づき始めた――。
【ベビーカーの中身】
最初にその母親とすれ違った時、ベビーカーにはカバーがかかっていて中は見えなかった。ただ、母親がにこやかに赤ちゃんに話しかけている様子は微笑ましかった。
ところが、ある日、ふとカバーが外れているのを見かけた。
「赤ちゃん、可愛いのかな?」
そう思い、すれ違いざまにベビーカーを覗き込んだのだが――そこにいたのは、赤ちゃんそっくりの人形だった。
「え?」
一瞬、自分の目を疑った。もしかしたら、赤ちゃんに見えたけど実はおもちゃだったのかもしれない。だが、その母親が赤ちゃんと会話する様子は、あまりに自然で、違和感を覚えることもなかった。
「人形を赤ちゃん代わりにしているのかな…?」
なんとも言えない気味悪さを覚えたが、気のせいだと思い込むことにした。
【動く人形】
それから数日後、また同じ親子とすれ違った。
その時、母親はベビーカーの中を覗き込みながら、赤ちゃんに話しかけていた。
「今日もいい天気ね~、気持ちいいわね~。」
何気なく視線を向けると、赤ちゃんが手足を動かしているのが目に入った。
「…やっぱり本物の赤ちゃんだったのか。」
そう思って安心しかけた瞬間、顔を見て愕然とした。
赤ちゃんの顔は動いている――確かに表情は変化しているのだが、その表情にはどこか機械的な違和感があった。
「え…?何これ…?」
まるで、生きているように見せかけられた人形が動いているような気味の悪さだった。
【マグマグの出来事】
さらに数日後、再びその親子とすれ違った時のことだ。
赤ちゃんが大声で泣いており、母親は必死になだめていた。泣き声は普通の赤ちゃんのものに聞こえたが、どこか不安定で、音がわずかに機械的に感じられた。
その時、赤ちゃんが持っていたマグマグが道路に転がり落ちてきた。
「すみません!」
私は思わず拾い上げ、母親に手渡した。
すると、その母親がこちらを振り返った瞬間――私は息を呑んだ。
母親の顔はどこか生気がなく、その瞳には不自然な暗さが漂っていた。そして、赤ちゃんを覗き込むと、顔の一部が何か崩れかけているように見えたのだ。
頬のラインがわずかにひび割れ、その中から何か金属のようなものがちらりと覗いていたように思えた。
「…!」
その瞬間、全身に寒気が走り、言葉を失った。母親は赤ちゃんが泣いているのも構わず、マグマグを受け取ると、足早にその場を去っていった。
【親子の消失】
その日を最後に、あの親子を見かけることはなくなった。
あの母親と赤ちゃんは、いったい何だったのか。人間だったのか、それとも――。
【エピローグ】
大学に通うための通学路は変わらないが、時折、あの親子とすれ違った場所を通るたびに、あの時の赤ちゃんの不自然な顔が頭をよぎる。
まるで人形が人間に近づこうとしているような、不気味な姿――。
もし、何気ない日常の中で赤ちゃんを連れた親子を見かけたら――その赤ちゃんが本当に人間であるかどうか、よく見極めるべきかもしれない。
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