私は今までに一度だけ、本当に奇妙で怖い体験をしたことがあります。20代の頃、ひとり暮らしを始めたばかりのアパートでのことです。その記憶は、今でも鮮明に頭に焼き付いています。
目次
不気味な鈴の音
その夜、仕事が終わり、私はアパートに帰り着くと、簡単に夕飯を済ませて早めに布団に入っていました。時計を見ると午前1時を過ぎた頃。静まり返った夜の中、布団の中でウトウトしかけていると、どこからか「チリン……チリン……」という音が聞こえてきました。
「鈴……?」
その音はかすかでしたが、確かに耳に届いていました。風鈴のような音ですが、このアパートの周囲には風鈴をかけるような住人はいないし、風もほとんどない夜でした。
「……気のせいか。」
そう思いながら再び目を閉じましたが、その音は少しずつ大きくなり、はっきりと聞こえるようになってきました。
「チリン……チリン……」
その音は、不思議と一定のリズムを刻んでいました。心臓がだんだんと早くなるのを感じ、私は布団から起き上がりました。
外へ出てしまった私
音の出どころが気になり、恐る恐る窓を開けました。しかし、そこには何もありません。代わりに、鈴の音はさらに近くで聞こえるようになりました。
「チリン……チリン……」
音はアパートの外、道路の方から聞こえてくるようでした。完全に目が覚めてしまった私は、なぜかその音を確かめないといけないという気持ちに駆られ、スリッパを履いて外に出ました。
鈴の音を追いかけて
真夜中の道路は静まり返っており、周囲の家の明かりも全て消えていました。しかし、鈴の音だけが、まるで私を誘うように遠くから聞こえてきます。
私は音の方へと足を進めました。どうしてこんな時間に外へ出たのか、冷静に考えれば不思議ですが、その時は音に引き寄せられるように体が勝手に動いていました。
音を追いかけて歩いていると、いつの間にか見覚えのない細い道に入り込んでいました。街灯もなく、月明かりだけが頼りです。そして、その道の先に、ぼんやりと光る何かが見えました。
光る鳥居と奇妙な空間
私の目の前に現れたのは、古びた鳥居でした。鳥居には無数の鈴がつけられており、それが風もないのに揺れて音を立てていました。
「チリン……チリン……」
近づくと、鳥居の向こうには見知らぬ風景が広がっていました。小さな神社のようなものが見え、その周囲を淡い霧が覆っています。そこだけが異質な空間で、背筋が凍るほどの冷たさを感じました。
見えない存在
足を止めた私の耳に、また鈴の音が響きました。けれど今度は、その音に混じって誰かの足音が聞こえてきたのです。
「誰かいるのか?」
思わず声を出してしまいましたが、返事はありません。ただ、足音は私の周囲を回るように響いていました。
怖くなった私は振り返り、来た道を戻ろうとしました。しかし、背後を見た瞬間、鳥居の外は真っ暗で、何も見えなくなっていました。
「帰れない……?」
心臓が跳ね上がり、足が震えました。
鈴の音の正体
恐怖に耐えきれず、鳥居の方へ振り返ったその時、霧の中から人影が現れました。それは、小さな鈴を手にした白い着物の少女でした。
「……ここへ来てはダメ。」
彼女は静かにそう言い、私をじっと見つめました。その目はどこか悲しげで、私に何かを訴えかけているようでした。
「ここは、あんたの来る場所じゃない。」
彼女が言葉を発した瞬間、強い風が吹き始め、私は鳥居の外へと押し出されるような感覚を覚えました。
気がついた場所
次に目を開けた時、私は自分のアパートの玄関前に立っていました。気づけば鈴の音も足音も消えており、ただ静かな夜が広がっていました。
忘れられない音
翌朝、昨夜の出来事が夢だったのか現実だったのか分からず、恐る恐る外へ出てみましたが、あの鳥居も道もどこにもありませんでした。
ただ、一つだけ奇妙だったのは、玄関の外に置かれていた小さな鈴。昨夜の音とそっくりな音を鳴らすそれが、なぜここにあるのかは分かりません。
私は今でも、その鈴を引き出しの奥にしまっていますが、夜中に音が聞こえてくることがあり、そのたびに冷や汗をかくのです。
もし、夜中に「チリン」という鈴の音が聞こえてきたら――それは、あなたをどこかに連れて行こうとしているのかもしれません。
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