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双眼鏡と不思議な山道
アウトドアが趣味の私は、週末になると双眼鏡を持って近所の山に出かけるのが日課だった。特にお気に入りの場所は、山の中腹にある展望スポット。そこからは遠くの街並みや広がる山々が一望できた。
ある日、いつものように双眼鏡を手にそのスポットに向かっていた途中、不思議なことに気がついた。いつもは一本道のはずなのに、見慣れない分かれ道が現れていたのだ。
「こんな道あったかな……?」
興味に駆られてその分かれ道に進んでみると、急に空気がひんやりと冷たくなった。そして、目の前に奇妙なトンネルのような岩場が現れた。洞窟にも見えるその入口には、古い木の看板が立っていて、かすれた文字でこう書かれていた。
「通れば戻る道なし」
普通なら引き返すべきところだが、その日はなぜか不思議な引力のようなものを感じ、そのまま中に入ってしまった。
見知らぬ風景
トンネルを抜けた瞬間、目の前に広がっていたのは見たこともない風景だった。木々の色は異様に鮮やかで、空の色が淡い紫色をしている。鳥の鳴き声も聞き覚えのない音色で、不気味な静寂が漂っていた。
「……異世界?」
そう思わずにはいられなかった。しかし、何よりも奇妙だったのは、目の前に広がる町並みだった。一見すると普通の人間の住む町のように見えるが、どこか不自然。建物の形が少し歪んでいたり、道を歩く人々の動きがカクカクとぎこちなかったりした。
双眼鏡で覗くと見える「異変」
少しでもこの世界の正体を知りたくて、双眼鏡を取り出して遠くを覗いてみることにした。最初は普通に町の様子が見えていたが、双眼鏡のレンズを微調整していくと、ある異様なことに気づいた。
人々の顔が、近づいて見えるほどに「ぼやけていく」のだ。普通なら顔の特徴がはっきり見えるはずなのに、まるで顔全体が溶けているように見える。そして、顔が完全にぼやけた瞬間、その人物は視界から消えてしまうのだ。
慌てて双眼鏡を外して肉眼で確認すると、確かにその場所には誰もいない。さっきまで確実に人がいたのに……。
怖い「視線」
恐怖を感じつつも、双眼鏡で遠くを覗くことをやめられなかった。レンズ越しに町を観察していると、ある建物の窓からこちらをじっと見つめている何かに気づいた。それは人間ではなかった。
顔がないのに、視線だけがこちらを追いかけてくるような奇妙な感覚。私は思わず双眼鏡を放り出した。けれど、その「視線」は肉眼でもはっきりと感じることができた。まるで私を見張っているかのように、ピタリと追尾されている気配がした。
逃げるための決断
「ここから出なきゃ――」
そう思った私は、双眼鏡を握りしめたままトンネルの方に戻ることにした。しかし、トンネルは消えていた。代わりに、あの看板だけが地面に倒れている。
「通れば戻る道なし」
その文字が、じわじわと浮かび上がってくるように見えた。その場に座り込んでしまいそうな恐怖を感じたその時、不思議な風が吹き、耳元で声が聞こえた。
「戻るなら今だ」
無意識に走り出した。目を閉じて前だけを見つめて走った。気づくと、いつもの展望スポットに戻っていた。
双眼鏡が映すもの
恐怖から逃れた私はほっとしたものの、手に握りしめた双眼鏡を見て、もう一度覗いてみたくなった。恐る恐る双眼鏡を覗いてみると、そこにはいつもの山や町並みが映っていた。
「やっぱり夢だったのか?」
そう思った瞬間、双眼鏡のレンズに映った遠くの町の一角に、あの異世界で見た「建物」が紛れ込んでいるのが見えた。そして、さっき私を追いかけてきた視線が、再びレンズ越しに私を捉えていた。
終わらない恐怖
それ以降、その双眼鏡を使うたびに、普通の景色の中にちらりと異世界の風景が映り込むようになった。最初は遠くに見えていたその世界が、少しずつこちらに近づいてきている気がする。
もしかしたら、次に双眼鏡を覗いたとき、私は再びあの世界に引き込まれるのかもしれない。
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