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ニートの街へようこそ――社会から消えた者たちの楽園 怖い話 奇妙な話 不思議な話 短編集

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「ニートの街」行きのバス

ある日、俺は社会から消えた。

「ニート認定制度」 によって、会社の記録も、銀行口座も、住んでいたアパートの契約もすべて抹消された。

訳も分からず街をさまよっていると、スマホに新たな通知が届いた。

「本日22時、指定のバス停へお越しください。ニートの街へご案内します。」

他に行くあてもない俺は、通知通りにそのバス停へ向かった。

そこには、行き先表示のない古びたバスが停まっていた。

車内には、俺と同じような虚ろな目をした人々が座っている。

「ニートの街って、なんなんだ……?」

そう思いながらも、バスが動き出すと、俺はすぐに眠りに落ちた。

「ニートの街」到着

目を覚ますと、俺は見たことのない街にいた。

高層ビルはなく、こぢんまりとしたアパートや商店が並んでいる。だが、不思議なことに、どの建物も新しく、整然としていた。

バスを降りると、スーツ姿の男が近づいてきた。

「ようこそ、ニートの街へ。ここでは、あなたのような“社会から除外された人々”が、新しい生活を送っています。」

「ここって、一体……?」

「簡単に言えば、“働かなくても生きていける街”ですよ。家も食事もすべて無料。必要なら、趣味に没頭する環境も用意されています。」

「……そんな都合のいい場所があるわけないだろ。」

「そう思いますよね。でも、実際に見てみれば納得できますよ。」

そう言って、男は俺を街へ案内した。

「ニートの街」の生活

男の言った通り、この街には働いている人がいない。

それどころか、誰もがのんびりと公園で読書をしたり、カフェで談笑したり、ゲームセンターで遊んだりしている。

「ここでは、好きなことをして過ごしていいんです。食事も、住む場所も、すべて用意されていますから。」

「……誰がそんなことを?」

「それを考える必要はありません。ただ、あなたはこの街の一員になった。それだけです。」

最初は疑っていたが、実際に暮らしてみると、居心地は驚くほど良かった。

朝は好きな時間に起き、無料のカフェでコーヒーを飲み、本を読んだり、ゲームをしたりして過ごす。

誰も働いていないのに、街は綺麗に保たれていて、食べ物も尽きることがない。

まるで夢のような生活だった。

「ニートの街」の秘密

だが、ある日、不思議なことに気づいた。

この街には「出入り口」がないのだ。

バスで来たはずのバスターミナルも、どこにも見当たらない。

「なあ、この街から出る方法ってあるのか?」

俺が住人に聞くと、誰もが曖昧な笑みを浮かべるだけだった。

「出る必要なんてないじゃないですか。」

そんな答えばかりだった。

それでも、どうにか街の端まで歩いてみた。

しかし、どこまで行っても「終わり」がない。

まるで、この街自体が閉じられた空間のように感じられた。

住人の「変化」

さらに、不気味なことがあった。

この街の住人は、なぜか皆 「ある一定の期間を過ぎると」 表情が変わるのだ。

最初は普通の人間だったのに、ある日突然、まるでロボットのように感情の起伏がなくなり、ただ「日々を消化するだけの存在」になっていく。

そして、いつの間にか、「消える」者もいた。

「なあ、この街の住人って、どこかに行くのか?」

勇気を出してスーツの男に尋ねると、彼は微笑んで言った。

「“卒業”するんですよ。」

「どこへ?」

「そこに興味を持つうちは、あなたはまだ“卒業”には早いですね。」

それ以降、俺は誰にも「卒業」の意味を聞けなかった。

俺はいつまでここにいるのか

気づけば、俺がこの街に来て半年が経っていた。

ここは確かに快適だ。何も考えずに生きていける。

だが、ふと、スマホを見ると気づいた。

「俺の顔が変わっている」

スマホのカメラに映った自分は、来た当初よりも無表情になっていた。

「……卒業」

その言葉が頭をよぎる。

「俺は、このままでいいのか?」

だが、もう何も考える気力が湧かない。

それが何よりも恐ろしかった。



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