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フレックス勤務の自由
私は数か月前に転職し、フルフレックスタイム制が導入された会社で働き始めた。以前の会社では毎朝満員電車に揺られ、決まった時間に出社し、定時にならないと帰れないという窮屈な生活だった。しかし、今の会社は違う。
「好きな時間に出勤して、決まった時間だけ働けばOK」
そう説明を受けたときは、まさに理想の職場だと感じた。早朝に仕事を終えて午後を自由に過ごすことも、午後から出社して夜に集中することもできる。自分のペースで働けるのは素晴らしいことだった。
しかし――この制度には、何かがおかしかった。
誰もいないはずのオフィス
ある日、私は朝早くに出社することにした。午前5時、誰もいない静かなオフィスで作業を進められるのは快適だった。しかし、30分ほど経った頃、背後から「カタカタ…」とキーボードを打つ音が聞こえてきた。
「誰かいるのか?」
不思議に思って振り返ると、オフィスはがらんとしていた。
「気のせいか…?」
しかし、それから数分おきに、誰もいないはずのデスクから微かなタイピング音や椅子が軋む音が聞こえてきた。
鳥肌が立ち、私はすぐに仕事を切り上げることにした。
フレックスの「罠」
次の日、今度は夜遅くに出社してみた。オフィスにはほとんど人がおらず、深夜の静寂に包まれていた。
しかし、ふと気づくと、暗闇の奥のデスクに誰かが座っているのが見えた。
「こんな時間に誰かいるのか?」
顔は見えなかったが、確かにキーボードを叩いている影があった。
「お疲れ様です」と声をかけたが、相手はピタリと手を止め、こちらをじっと見た――ように感じた。
そして、次の瞬間、その影がすっと消えた。まるで最初から存在しなかったかのように。
会社の「記録」
あまりに気味が悪かったので、翌日、人事部に「夜遅くまで残っている社員がいるのか?」と確認してみた。しかし、返ってきた答えは意外なものだった。
「そんなはずはありません。このオフィスの最終退館記録は、22時にはすべての社員が退社していますよ。」
確かに私は深夜2時ごろにあの影を見た。しかし、記録上、その時間にオフィスにいたのは私だけだった。
消えたタイムカード
次の週、私は改めてフレックス制度のルールを見直すため、社員の勤務記録を確認することにした。すると、あることに気づいた。
この会社では、一度タイムカードを押して出社すると、記録が消えることがある。
通常、勤務時間はデータベースに残るはずだ。しかし、何人かの社員の過去の出勤記録が、ある日を境にまったく残っていないのだ。
「これって……どういうことだ?」
そして、ある特定の条件に気づいた。
「午前4時~6時、もしくは深夜1時以降に出社した社員の記録が消えている」
会社に囚われた社員
怖くなった私は、深夜にオフィスへ行くことをやめた。しかし、ある日、社内ネットワークで偶然、不審なファイルを見つけた。
ファイルの名前は「フレックス外時間勤務者リスト」。
開いてみると、そこには過去にこの会社で働いていたはずの社員の名前がずらりと並んでいた。しかし、彼らの記録はどこにもないし、今の社員名簿にも存在しない。
「この人たちは……どこに行ったんだ?」
その時、オフィスの奥から、聞き覚えのある「カタカタ…」というタイピング音が響いてきた。
振り返ると、暗闇の奥に誰かが座っていた。
今度ははっきりと見えた。
顔のない人間が、タイピングを続けていた。
「フレックスで、好きな時間に働けるからいいよな」
声が聞こえた。誰もいないはずのオフィスで。
私はパソコンを閉じ、急いでオフィスを出た。それ以来、私は決して朝早くも深夜遅くも出社しないようにしている。
この会社では、特定の時間に働くと「存在しなかったこと」になる。
それが、フレックス勤務の本当の「罠」だったのかもしれない。
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