目次
【プロローグ】
私は都内のIT企業で働いている。
最近、会社がフレックスタイム制を導入した。コアタイム以外なら、出社も退社も自由。残業を減らし、ワークライフバランスを向上させるための制度だという。
「朝早く出社して早めに帰るもよし、遅く来て夜まで作業するもよし」
そう説明された時、私はこの制度を歓迎した。朝が苦手な私は、昼頃に出社して、夜遅くまで働くスタイルを選んだ。
だが、今となっては、この制度を選んだことを後悔している。
なぜなら―― 「深夜のオフィスには、何かがいる」 ことに気づいてしまったからだ。
【深夜のオフィス】
フレックスを活用し始めてしばらくは、快適そのものだった。
昼に出社し、集中して仕事を進め、夜の静かなオフィスでじっくり作業に取り組める。周りに人がいないと、驚くほど仕事が捗るものだ。
だが、ある日を境に、私は異変に気づいた。
深夜23時を過ぎた頃、オフィスにはほとんど人がいなくなる。私もそろそろ帰ろうとPCをシャットダウンし、デスクを片付けていた。その時――。
カタ…カタカタ…
タイピング音が聞こえてきた。
「まだ誰か残ってるのか?」
ふと周りを見渡したが、私の他に誰もいない。照明もほとんど消され、静まり返ったオフィスに、微かにキーボードを叩く音だけが響いていた。
【誰もいないのに…】
気のせいかと思い、帰る準備を進めていた。
すると、今度はプリンターが勝手に動き出した。
「ガガガ…ウィーン…」
白い紙が1枚、ゆっくりと排出される。
「夜23時以降、オフィスにいるべきではない」
印字された文字を見た瞬間、背筋が凍った。
誰が、何のためにこんなメッセージを?
プリンターのジョブ履歴を確認したが、誰が印刷したのかは分からなかった。
私は怖くなり、急いでオフィスを後にした。
【同僚の証言】
翌日、昼に出社し、親しい同僚のカワイに昨夜の出来事を話した。
すると、カワイは顔を曇らせ、こう言った。
「実は俺も似たようなことがあったんだよ…。」
彼もフレックスを利用して深夜まで働くことが多かった。ある日、23時半を過ぎた頃、誰もいないはずのオフィスの奥から、誰かが独り言をつぶやく声が聞こえてきたらしい。
「…まだ、いるの?」
「…いつまで…?」
恐る恐る声のする方を見たが、そこには誰もいなかったという。
「それ以来、俺は絶対に23時には帰ることにしてる。」
カワイの顔は本気だった。
【ルールを破った者】
しかし、その話を聞いた直後、私は別の同僚、サトウのことを思い出した。
彼はバリバリのエンジニアで、誰よりも遅くまで会社に残ることで有名だった。
「そういえばサトウさん、最近見ないな。」
私がそう言うと、カワイはさらに表情を曇らせた。
「…サトウさん、行方不明になったらしい。」
「え?」
「最後に目撃されたのが、会社の防犯カメラに映ってたんだよ。でも、映像が妙なんだ。」
サトウは午前1時を過ぎてもオフィスで作業していた。そして――。
「突然、誰もいない通路に向かって話しかけて、立ち上がって…そのまま視界から消えたんだ。」
「消えた?」
「そう、まるで誰かに連れ去られるみたいに。出口のカメラには映ってなかった。だから、誰も彼がどこに行ったのか分からない。」
【フレックスの裏ルール】
「これ、フレックスの暗黙のルールらしいんだよ。」
カワイは小声で言った。
「夜23時を過ぎても会社にいると、『向こう側』に引き込まれるって…。」
「向こう側?」
「分からない。でも、サトウさんの前にも、何人かそうやって消えたらしい。」
「そんなバカな…。」
そう言いながらも、昨夜のプリンターの警告を思い出し、私は寒気を覚えた。
【最後の警告】
それ以来、私はどれだけ仕事が残っていても、23時には絶対にオフィスを出るようにした。
だが、ある日、つい作業に没頭しすぎて、時計を見ると23時5分を過ぎていた。
「やばい…!」
急いで荷物をまとめ、オフィスを出ようとした瞬間――。
「チリン…」
どこからともなく鈴の音のような微かな音が聞こえた。
振り向くと、薄暗いオフィスの奥の方に、誰かが立っていた。
それはサトウだった。
無表情のまま、こちらをじっと見つめている。
「……」
彼の口が何かを動かしている。でも、声は聞こえない。
私は恐怖で足が動かず、その場に立ち尽くした。
すると、サトウがふっと微笑み――。
次の瞬間、オフィスの灯りが一斉に消えた。
【エピローグ】
翌朝、私は会社の入り口で目を覚ました。
朝まで何をしていたのか記憶がない。ただ、心臓の鼓動が異常なほど速かった。
それ以来、私は夜遅くまで会社に残ることは一切やめた。
それでも時々、会社の誰かがふと深夜まで残ろうとすると、私は忠告するようにしている。
「夜23時を過ぎてもオフィスにいたら、サトウさんが迎えに来るかもしれないよ」
フレックス勤務は便利だが―― 夜のオフィスには、何かが潜んでいる。
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